きつねこぶたの創作部屋

きつねこぶたの創作小説ブログです。ただいま<私立クリスティ 学園シリーズ>を連載しています。
[ <5>−1 ]
2007/07/08(Sun) 07:07:33
「もう、嫌んなっちゃう」
 次の日。うきうき登校した茉理を待っていたのは、奈々の不平顔だった。
「雅人様って、バスケ部じゃないんだってー、もうショック!」
 昨日は次の対校試合のために、練習に出ていたということだ。
「うちの男バス、ろくな選手いないみたい。だから試合のたびに、雅人様に助っ人頼んでるんだって」
 あーあ、と肩を落としながら、奈々は席に戻っていった。
 でもそんな彼女を気の毒と思いながらも、茉理の心は宙に浮いていた。
(今日は、間違いなくお兄ちゃんに会える!)
 担任がやってきて、ホームルームが始まっても、彼女はそのことばかり、考えていた。




第一巻<5> / TB(-) / CM(-) /

[ <5>−2 ]
2007/07/08(Sun) 07:10:13
 退屈な英語の一時間目が終わった。
 10分間の休みは短い。
 あっという間に、2時間目が始まろうとしていた。
「ちょっと、今日の日直、誰?」
 学級委員の声がする。
「次、数学の山田じゃん。消しとかないと、うるさいぞ」
「あ、いっけない」
 横でしゃべっていた奈々が、立ち上がった。
「あたし、今日日直だった」
 手伝うよ、と茉理も立ち上がり、二人は黒板消しを手に持った。
「次、数学かあ」
 あたし、苦手、とつぶやく奈々に、茉理もそうだねーと声を合わせる。
 二人は背伸びしたり、体を横にして、手早く消していった。
「茉理、貸して」
 奈々は黒板消しを二つ持つと、3階の窓から身を乗り出して叩く。
「おいっ、どけよっ」
「なんだと、このやろう!」
 教室の隅で、男子生徒による、くだらない小競り合いが始まった。
(うるさいなあ)
 茉理は窓辺によりかかり、ぼーっとクラスの喧騒を眺める。
 すると---。
 ピュッ。
 彼女の横に、何かが飛んできた。
(え?)
 それは筆箱で、どうやら小競り合いの最中、誰かが投げてしまったらしい。


第一巻<5> / TB(-) / CM(-) /

[ <5>−3 ]
2007/07/10(Tue) 09:21:22
 カーンッ。
 筆箱は、横の窓で一生懸命黒板消し叩きをしていた奈々の後頭部に、見事に当たった。
「あったーっ、誰よ、もう!」
 奈々がぷりぷり怒りながら、教室に向き直る。
「ひとつ、落っことしちゃったじゃない!」
 そう言う彼女の手には、黒板消しが一つだけ。
「もう! 誰か取りに行ってよね」
 彼女は、落ちた黒板消しを確認しようと、窓の下を見る。
 すると、次の瞬間。
 顔を覆って、彼女は窓の下にしゃがみこんでしまった。
 体がぶるぶる震えている。
「・・・どうしよう・・・どうしたらいいの」
 声色も変わった。
 恐怖に体を縮めている奈々を、教室のみんなは驚いて見つめる。
「何、どうしたの?」
 茉理は身を乗り出して、窓の下をみた。
(あ・・・)
 窓の下は、コンクリートの通路になっている。
 その通路にいた集団に、たまたま黒板消しが落下したのだ。
 4人の男子生徒のうち、真ん中にいる生徒の頭が、うっすら白くなっている。
(あ、あの人に当たっちゃったのね)



第一巻<5> / TB(-) / CM(-) /

[ <5>−4 ]
2007/07/11(Wed) 07:48:44
 横の窓から他の生徒たちも、息をのんでみつめていた。
「おいっ、生徒会だ」
「やばっ、よりによって、会長じゃねえか」
「可哀想、川本さん」
 この世の終わりみたいに、奈々は震えていた。
 うっすら白頭が、黒板消し片手に、まっすぐ上を見上げた。
 茉理と目があう。
 黒い瞳は激しく怒っていて、茉理は、その気迫にぞっとした。
 いや、それよりも。
 彼を見て、茉理の心臓は跳ね上がる。
(あの人だ!)
 茉理に木の上から、話しかけてきた男の子。
 天使のような微笑で、やさしく見つめてくれた人。
(やっぱり生徒会の人だったのね)
 茉理は、しばらく見とれていたが、あ、そうだ、と気がついた。
(ちょうどいいわ。あの本、返さないと)
 彼女はすばやく机に行くと、かばんから名簿を取り出す。
 そして急いで下に駆けていった。



第一巻<5> / TB(-) / CM(-) /

[ <5>−5 ]
2007/07/12(Thu) 11:34:35
 息を切らせながら、降りてきた茉理を、彼はじとっとねめつけた。
 その視線と表情が、茉理を震え上がらせる。
 まわりの3人は、黙って二人を見守っていた。
(なんか・・・前に会ったときと違うような)
 一抹の不安がよぎったが、彼女は勇気を奮い起こす。
「あの、その・・・」
「お前か」
 彼は、低い怒りを含んだ声で、聞いた。
「これを今、落としたのは貴様だな!」
「え? あ、ちょっと違うんですけど」
 茉理は、あわてて答えた。
「ふざけるな!」
 彼が、ものすごい声で怒鳴ると、ビュッと風が巻き起こった。
「え!?」
 彼の手のひらが、前に突き出された瞬間、茉理の体がふわっと宙に浮いた。
 と思うと、勢いよく、横の校舎に叩きつけられる。
「きゃあーっ」
 いたたた、と茉理はぶつけられた背中を押さえた。
 あまりにも突然で、自分に何が起こったのかわからない。
 体の痛みをこらえ、誤解を解こうと立ち上がると、悪魔のような笑みを浮かべて、彼は目の前に立っていた。
「違う? 俺の頭上にいたのは、貴様だろ? 言い逃れは許さん!」
 がっと右足を上げると、彼は思いっきり茉理のお腹を蹴った。
 彼女は、あまりの痛みに耐え切れず、お腹をかかえて校舎の壁にうずくまる。
(嘘・・・)
 ショックと痛みで、涙が出た。
(こんな人だったの?)
 もっとやさしくて、いい人だと思っていたのに。
 別人のような彼が、そこにいた。
 平気で女の子を蹴り飛ばし、壁にたたきつける悪鬼のような少年が---。



第一巻<5> / TB(-) / CM(-) /



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