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2007/07/24(Tue) 08:13:17
5時間目は、中等部全体の生徒集会だった。 新一年生に生徒会役員を紹介、中等部のきまりやその他もろもろの説明があるという。 (なんか嫌な予感がするんですけど) 茉理はぐったりしながら、一人で体育館を目指した。 まわりの生徒たちは皆、白い目で彼女を睨む。 「ほら、あの子よ」 「あいつか。帝様に逆らった奴」 「何考えてんのかしらねー、よく廊下を歩いていられるわ」 あちこちでささやく陰口に、茉理はますます傷ついた。 でもここで引き下がるのは嫌だ。 (わたし、何にも悪いことしてないんだもん。どうしてこんな目に合わなきゃいけないのよ) 唇をかみ締め、こぶしを握り、滾る怒りを力に変えて。 茉理は、体育館に入っていった。
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2007/07/25(Wed) 08:37:58
「えー、ではこれより本年度 第一回目の生徒集会を始めます」 マイク片手に、舞台脇で司会が言うと、きゃーっと歓声があがった。 「英司先輩よ」 「かっこいい、声がいいよね」 「英司先輩―っ、がんばってー」 女の子たちの目が、ハートになっている。 茉理は、思いっきりあきれた。 これじゃあ生徒集会というより、人気アイドルコンサートのようだ。 手を振る女生徒たちに、マイクを握る英司は、困惑しながら続ける。 「あ、あの、静かにしてください。まず最初に、生徒会長から挨拶があります」 とたんに雰囲気が変わる。 緊張の一瞬---皆、しーんとして、壇上にあがる黒い人影を見守った。 「俺が、この中等部の生徒会長 2年A組 伊集院 帝だ」 黒髪・黒瞳の少年は、整列した生徒たちをじっと見下ろす。 「特別、俺から言うことはない。規律を守り、お互い有意義な学校生活を送ろう。以上」 (なんか短いけどまともな挨拶よね) 拍子抜けしながら、茉理は舞台を下り、椅子に座る彼を見た。 なんか今朝の様子からして、とんでもない挨拶が飛び出すかと思ってたけど、意外にあっさり終わってしまう。 (俺様に従え、とか俺が校則だ、とか言いそうだったんだけどな) 首をかしげる彼女の耳に、また周囲のざわめきが聞こえてきた。 「やっぱり威厳あるよな、帝様」 「そりゃそうさ、クリスティ本家直系の跡取りだぞ」 「名門 伊集院財閥の御曹司でもあるしね。さっすがあ」 (クリスティ本家?) この言葉が、茉理は妙にひっかかった。 (こないだクリスティって人のことは、説明聞いたけど) 本家、ということは、分家もあるのだろうか。 (ま、とにかくご先祖様が、クリスティって魔族だったってことよね) 茉理はわかることだけ考えて、次の挨拶に立った人物に注目した。 壇上に上がったのは---。
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2007/07/26(Thu) 10:54:52
「きゃーっ、雅人様よっ」 「雅人先輩っ、素敵」 「ありがとう」 金色の髪をなびかせ、優雅なしぐさで雅人は手をあげる。 「新入生のみなさん、中等部入学を心から歓迎します。僕は生徒会副会長 3年C組 伊集院 雅人です。よろしく」 にこっと笑むと、女子の間から、感嘆のため息が漏れる。 「ああっ、雅人様・・・」 「やっぱり素敵よね」 「あたしのプリンス・チャーミングだわ」 砂を吐きそうな甘い賛辞が、あちこちから聞こえてくる。 その声に、壇上の雅人は、すっと憂いを秘めた顔になった。 「これだけだくさんのレディたちに想われて、僕はなんて罪な男なんだ」 更に片手を額に沿え、横を向いてポーズまで決める。 「レディたち、ありがとう。君たちの熱い想いは、この僕が確かに受け取ったよ。ささやかだけど、これは僕からの感謝の贈り物だ。受け取ってくれたまえ」 彼は指をぱちん、と鳴らした。 すると---。 「きゃ、綺麗」 「薔薇が空から降ってきたぞ」 突然、体育館の天井から、色とりどりの薔薇の花が、雨のように降ってきたのだ。 突然のことに、茉理はあっけにとられてしまう。 薔薇は、あとからあとから降り注ぎ、たちまち体育館の床は、薔薇の花で埋め尽くされた。
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2007/07/27(Fri) 09:04:46
際限なく降ってくる薔薇の中で、雅人はマイクを片手に言葉を続ける。 「僕の心は、薔薇のように美しく 情熱的でありたいと思っている。でもどうだろう。この花たちは、君たちレディの前では、香りも華やかさも薄れてしまう。僕の魅力も、君たちの前では、きっと色あせたセピア色に、光を失ってしまうことだろう。でも僕は、それでもかまわない。君たちが輝くのなら、僕はその美しさを引き立てる、風にそよぐ青草の一本として」 「英司、止めろ」 低い、くぐもった声で、帝はつぶやいた。 横に控えた英司は首をすくめ、司会用マイクを手に持つ。 「えー、あの、副会長、時間の関係上、挨拶はこのくらいで」 「僕はまだ半分も言ってないよ、英司君」 にっこりと雅人はつぶやく。 「僕たち生徒会一同が、どれだけ新入生に会うことを心待ちにしていたか、この僕の熱い胸の想いを語るのには、時間がいくらあっても足りないよ。もう少しだけ、許してくれないか」 「はあ、でも」 「ねえ、いいだろう? きっとみんな、僕の言葉を待ってるに違いない。でも君の無情な行為によって、僕の想いは踏みにじられ、地の底に埋め尽くされてしまう。ああっ、僕の心は悲しみにふさがれ、もう一歩も動くことは出来ない。僕のこの身は氷の棺に閉じ込められ、永久に出ることはかなわない」 わけのわからない台詞の中間に、突然体育館の両横を厚いカーテンがさっと覆い、まわりは真っ暗、ステージにはどこから操作しているのか、スポットライトが悲劇にうちひしがれるポーズの雅人を照らしていた。 (なんか・・・お芝居?) 茉理は、暗くなっても降り注ぐ薔薇の花に、うんざりしながら、ため息をつく。 更にどこからともなく物寂しげなバックミュージックまで流れてきた。
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2007/07/28(Sat) 09:45:41
「英司」 怒りを含んだ帝の声に、英司はため息ひとつ、指をぱちん、と鳴らした。 すると。 「うわああーっ」 「きゃあっ、突風っ」 「すごい風だ」 「スカートが、やだあっ」 ものすごい勢いで、体育館全体に風が吹き抜けた。 風はすべての薔薇の花を宙に舞い上げ、両横のカーテンをさっと開く。 上の窓がさっと開くと、薔薇は風と共にすべて外に吹き出されてしまった。 (な、何? 今の) 茉理は、驚きで口をぽかんと開ける。 さっきまでのムードたっぷり一人芝居は、すべて消えて、元の体育館に戻った。 「英司君、なんてことをするんだ! この僕の感動的な舞台を」 「英司、飛ばせ」 帝の一言に、英司は肩をすくめ、また指を鳴らした。 「ちょっ、わっ!」 瞬間、マイク片手に雅人の姿が、舞台上から掻き消えたのだ。 (う、嘘でしょ、消えちゃった) 茉理も、他の生徒たちも、唖然と舞台を見つめてしまう。 「えー、長くなりそうなので、副会長挨拶はここで一旦打ち切らせていただきます」 司会の声に、皆、我に返った。
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