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2007/08/25(Sat) 10:21:30
春の風が、時々蒸し暑さを運んできた。 穏やかな日の光が、教室に差し込む。 (平和ね・・・) 水曜日の放課後。 茉理は、図書室でのんびりしていた。 最近少しずつだが、まわりが変わってきて、茉理も過ごしやすくなった。 教師の冷たい態度も、廊下での陰口も、何より突然襲い来る魔法攻撃もない。 あいかわらず一人だが、別に寂しくはなかった。 お気に入りの本を選んで、ぼーっとしていると---。 「こんにちは」 横から声をかけられて、茉理は目を丸くした。 あれから彼女に声をかけてくる勇気ある生徒など、一人もいなかったからだ。 彼女とかかわると、生徒会会長の報復対象になるやもしれない---みんな、それを恐れているというのに。 声の主を確認し、茉理は驚いた。 「こ、こんにちは。えーと」 「生徒会 会計の、森崎 直樹だ」 表情をまったく見せない黒眼鏡が、にぶく光る。 すらりとした長身に上から見下ろされ、戸惑いを隠せない茉理を気にもせず、直樹は横の椅子を引いて、腰掛けた。
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2007/08/26(Sun) 09:50:27
「少しいいかな」 「はい」 手に持つ小型PCを机に置き、彼は眼鏡ごしに彼女を観察する。 いたって普通の、どこにでもいる平凡な女生徒だ。 (彼女のどこが、帝を動かすのだろう?) 「あの?」 じっと見つめられ、怪訝そうな茉理に、彼は薄く微笑んだ。 「失敬。少し話をしてもいいかな」 「あ、どうぞ」 茉理は椅子をずらし、直樹の方を向いた。 「君は、今年外部から来たそうだけど、うちの学校のこと、どうして知ったのかな? この学園は、一応日本の学校法人に入ってるけど、普通の学校広報誌や、ネットには載ってないはずなんだけどね」 「・・・・・・」 茉理は、なんと答えて良いかわからず、沈黙した。 「誰かから情報を得たんだと思うんだけど、それは誰かな?」 「あの、それってどうしても答えないといけないですか?」 「強制じゃないけどね。出来れば答えてもらえるとありがたい。君の答えられる範囲でかまわないから」
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2007/08/27(Mon) 13:37:42
真剣な口調に、茉理は口を開いた。 「わたしの知ってる人が---近所で仲良しだった人が、この学校に突然転校したんです」 「ふうん、何時ごろ?」 「小学校のときにですけど」 直樹は、眼鏡のフレームを指であげた。 「じゃ、けっこう経ってるね。その人から、この学校のこと、教えてもらったのか」 「はい」 「どのくらい、連絡を取り合っていたのかな? 最近までずっと?」 「いいえ、転校してひと月後に、一通だけ手紙が来たんですけど、それきりで」 「そうか」 直樹は、何か考え込んでいたが、立ち上がる。 「ありがとう。参考になったよ」 「あ、あの」 茉理は、立ち去ろうとする直樹の背中に声をかけた。 「わたしも一つ、聞いていいですか?」 「何かな」 「生徒会長って、一人っ子ですか? 双子とか、そっくりな兄弟とかいません?」 直樹は、表情を変えずに答える。 「さあ。そういうことは、本人のプライベートな情報だからね。知りたかったら、直接聞くといいよ」 (直接聞けないから、聞いてるんでしょうが) 茉理のがっかりした顔を見ながら、直樹はくすっと笑った。 「じゃ」 「あ、ありがとうございました」 何でお礼を言ってんのかわからないが、茉理は立ち上がり、先輩に礼をした。 (面白い子だな) 直樹はそう思いながら、図書室を後にした。
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2007/08/28(Tue) 09:36:43
下校時間前の一刻時。 生徒会室では、ささやかなお茶会が開かれていた。 といっても---。 優雅にティーカップを手にしているのは、雅人ただ一人。 PCをカチャカチャ打ちながら、何かを探している直樹。 天井まで届くかもしれないぐらいの書類の山に、判を押しているのは英司。 一応二人とも、横にカップはあるのだが、中身はとうの昔に冷め切っており、アイスティーになりかかっていた。 「帝、来ないんですか?」 適当に判押しとけって言われても---ぶつぶつ英司がこぼす。 「これ、本当は帝の仕事なんですけど」 「本当に、困った王様だよねえ」 万年我侭、さぼりの常習犯、と雅人は鼻を鳴らした。 「ていうか、雅人先輩も手伝ってくださいよ! 一人でお茶なんか飲んでないで」 「何を言うんだ、英司君。この眉目秀麗、優雅にして華麗な僕が、仕事がたまって定時に帰れない残業サラリーマンのように、書類に埋もれている姿など、似つかわしくないと思わないのか?」 「そのセリフ、真面目に仕事をがんばって生きてる全国のサラリーマンの皆様に、かなり失礼な発言だと思うんですが」 英司はため息をつきながら、もう一つ書類に判を押す。 (万年我侭、さぼりの常習犯って---雅人先輩にも、当てはまるよな、十分) こんな上司---いや、先輩を持ってる俺は、絶対不幸だ。 倒れそうな書類の山を見上げながら、英司は内心でうめいた。
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2007/08/29(Wed) 10:12:04
「これだな」 直樹はPCから顔をあげ、息をはいた。 「おや、直樹君、早いね」 もう解析終わったんだ? と雅人はにこやかに笑む。 「これぐらいはね。彼女は結構わかりやすい情報をくれたから、あっという間に特定できたよ」 表情を変えず、直樹はPCを見つめる。 「データ、転送するから、各自頭に入れといてくれ」 「はい」 雅人はジャケットの内ポケットから、英司はズボンのポケットから、それぞれ小型PCを取り出した。 型はまったく直樹の機種と同じだ。女性のコンパクトサイズで、いぶし銀色に光っている。 蓋には、それぞれ異なった紋章のような物がついていた。 直樹がPCのキーを一つ押すと、二人の小型PCが同時に起動、それぞれ同じ画面が写った。 「ふーん、彼か」 「2年B組、出席番号9番、早川 明人ですか」 「英司君、知ってる?」 「いいえ」 雅人の質問に、英司は首を横に振った。
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