きつねこぶたの創作部屋

きつねこぶたの創作小説ブログです。ただいま<私立クリスティ 学園シリーズ>を連載しています。
[ <11>−1 ]
2007/08/25(Sat) 10:21:30
 春の風が、時々蒸し暑さを運んできた。
 穏やかな日の光が、教室に差し込む。
(平和ね・・・)
 水曜日の放課後。
 茉理は、図書室でのんびりしていた。
 最近少しずつだが、まわりが変わってきて、茉理も過ごしやすくなった。
 教師の冷たい態度も、廊下での陰口も、何より突然襲い来る魔法攻撃もない。
 あいかわらず一人だが、別に寂しくはなかった。
 お気に入りの本を選んで、ぼーっとしていると---。
「こんにちは」
 横から声をかけられて、茉理は目を丸くした。
 あれから彼女に声をかけてくる勇気ある生徒など、一人もいなかったからだ。
 彼女とかかわると、生徒会会長の報復対象になるやもしれない---みんな、それを恐れているというのに。
 声の主を確認し、茉理は驚いた。
「こ、こんにちは。えーと」
「生徒会 会計の、森崎 直樹だ」
 表情をまったく見せない黒眼鏡が、にぶく光る。
 すらりとした長身に上から見下ろされ、戸惑いを隠せない茉理を気にもせず、直樹は横の椅子を引いて、腰掛けた。



第一巻<11> / TB(-) / CM(-) /

[ <11>−2 ]
2007/08/26(Sun) 09:50:27
「少しいいかな」
「はい」
 手に持つ小型PCを机に置き、彼は眼鏡ごしに彼女を観察する。
 いたって普通の、どこにでもいる平凡な女生徒だ。
(彼女のどこが、帝を動かすのだろう?)
「あの?」
 じっと見つめられ、怪訝そうな茉理に、彼は薄く微笑んだ。
「失敬。少し話をしてもいいかな」
「あ、どうぞ」
 茉理は椅子をずらし、直樹の方を向いた。
「君は、今年外部から来たそうだけど、うちの学校のこと、どうして知ったのかな? この学園は、一応日本の学校法人に入ってるけど、普通の学校広報誌や、ネットには載ってないはずなんだけどね」
「・・・・・・」
 茉理は、なんと答えて良いかわからず、沈黙した。
「誰かから情報を得たんだと思うんだけど、それは誰かな?」
「あの、それってどうしても答えないといけないですか?」
「強制じゃないけどね。出来れば答えてもらえるとありがたい。君の答えられる範囲でかまわないから」



第一巻<11> / TB(-) / CM(-) /

[ <11>−3 ]
2007/08/27(Mon) 13:37:42
 真剣な口調に、茉理は口を開いた。
「わたしの知ってる人が---近所で仲良しだった人が、この学校に突然転校したんです」
「ふうん、何時ごろ?」
「小学校のときにですけど」
 直樹は、眼鏡のフレームを指であげた。
「じゃ、けっこう経ってるね。その人から、この学校のこと、教えてもらったのか」
「はい」
「どのくらい、連絡を取り合っていたのかな? 最近までずっと?」
「いいえ、転校してひと月後に、一通だけ手紙が来たんですけど、それきりで」
「そうか」
 直樹は、何か考え込んでいたが、立ち上がる。
「ありがとう。参考になったよ」
「あ、あの」
 茉理は、立ち去ろうとする直樹の背中に声をかけた。
「わたしも一つ、聞いていいですか?」
「何かな」
「生徒会長って、一人っ子ですか? 双子とか、そっくりな兄弟とかいません?」
 直樹は、表情を変えずに答える。
「さあ。そういうことは、本人のプライベートな情報だからね。知りたかったら、直接聞くといいよ」
(直接聞けないから、聞いてるんでしょうが)
 茉理のがっかりした顔を見ながら、直樹はくすっと笑った。
「じゃ」
「あ、ありがとうございました」
 何でお礼を言ってんのかわからないが、茉理は立ち上がり、先輩に礼をした。
(面白い子だな)
直樹はそう思いながら、図書室を後にした。



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[ <11>−4 ]
2007/08/28(Tue) 09:36:43
 下校時間前の一刻時。
 生徒会室では、ささやかなお茶会が開かれていた。
 といっても---。
 優雅にティーカップを手にしているのは、雅人ただ一人。
 PCをカチャカチャ打ちながら、何かを探している直樹。
 天井まで届くかもしれないぐらいの書類の山に、判を押しているのは英司。
 一応二人とも、横にカップはあるのだが、中身はとうの昔に冷め切っており、アイスティーになりかかっていた。
「帝、来ないんですか?」
 適当に判押しとけって言われても---ぶつぶつ英司がこぼす。
「これ、本当は帝の仕事なんですけど」
「本当に、困った王様だよねえ」
 万年我侭、さぼりの常習犯、と雅人は鼻を鳴らした。
「ていうか、雅人先輩も手伝ってくださいよ! 一人でお茶なんか飲んでないで」
「何を言うんだ、英司君。この眉目秀麗、優雅にして華麗な僕が、仕事がたまって定時に帰れない残業サラリーマンのように、書類に埋もれている姿など、似つかわしくないと思わないのか?」
「そのセリフ、真面目に仕事をがんばって生きてる全国のサラリーマンの皆様に、かなり失礼な発言だと思うんですが」
 英司はため息をつきながら、もう一つ書類に判を押す。
(万年我侭、さぼりの常習犯って---雅人先輩にも、当てはまるよな、十分)
 こんな上司---いや、先輩を持ってる俺は、絶対不幸だ。
 倒れそうな書類の山を見上げながら、英司は内心でうめいた。



第一巻<11> / TB(-) / CM(-) /

[ <11>−5 ]
2007/08/29(Wed) 10:12:04
「これだな」
 直樹はPCから顔をあげ、息をはいた。
「おや、直樹君、早いね」
 もう解析終わったんだ? と雅人はにこやかに笑む。
「これぐらいはね。彼女は結構わかりやすい情報をくれたから、あっという間に特定できたよ」
 表情を変えず、直樹はPCを見つめる。
「データ、転送するから、各自頭に入れといてくれ」
「はい」
 雅人はジャケットの内ポケットから、英司はズボンのポケットから、それぞれ小型PCを取り出した。
 型はまったく直樹の機種と同じだ。女性のコンパクトサイズで、いぶし銀色に光っている。
 蓋には、それぞれ異なった紋章のような物がついていた。
 直樹がPCのキーを一つ押すと、二人の小型PCが同時に起動、それぞれ同じ画面が写った。
「ふーん、彼か」
「2年B組、出席番号9番、早川 明人ですか」
「英司君、知ってる?」
「いいえ」
 雅人の質問に、英司は首を横に振った。



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