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2007/09/01(Sat) 09:16:01
下校時刻を告げる放送が、校内に響き渡った。 茉理は読みかけの本を棚に戻し、図書室を出る。 門の横に来ると、立ち止まり、桜の木を見上げた。 そっと幹に触れてみる。 重なり合う葉を、風が揺らしているばかり。 (やっぱりいない) 毎日、帰る前に、木の上を見上げるのが、彼女の習慣になっていた。 あの少年に会いたかった。 わけがわからない一連の出来事は、ずべて彼と出会った日から始まっているように思える。 (聞きたいこと、たくさんあるんだけどな。どうしたら会えるのかなあ) ため息をつきながら、茉理はあきらめて、門をくぐり、下校した。
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2007/09/02(Sun) 20:28:02
長い影が、道路に伸びる。 駅までの道を、茉理はのんびり歩いていた。 交差点まできたとき、彼女ははっとする。 向こう側で、信号待ちをしている少年がいた。 (あの子、確か、えーと・・・) すぐに名前が出てこなかったが、数分後にひらめいた。 (思い出した。1年E組 遠野 斎君。生徒会臨時書記だっけ) 一体いくつなんだろうと思ってしまう白髪。 くぼんだ生気のない瞳。 顔立ちは整っているくせに、まったく存在感を感じさせない。 (確かしゃべれないんだっけ) 茉理は、全体集会でみんながうわさしていたことを思い出した。 小柄でやせ細り、風のささやかな一吹きで、飛んでいってしまいそうだ。 (おばあちゃんがよく言ってた、もやしっ子ってこんな感じなのかな) そんなことを思いながら、茉理は斎を眺めた。 『あ、あぶない!』 「え?」 茉理は、突然頭の中に響いた声に驚く。 (わたしの気のせい? 何、今の声)
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2007/09/03(Mon) 11:34:20
キキーッ。 向こう側---斎の目の前で、乗用車が急ブレーキをかけて停止した。 運転手が、窓から顔を覗かせて驚いている。 「おいっ、引いたか?」 ざわざわと、人ごみが出来ていた。 「大丈夫。その子が助けてくれたみたいだ」 あー、良かった、と運転手はつぶやき、また車をスタートさせる。 人垣も崩れ、すぐに何もなかったように戻っていった。 「?」 反対側から、茉理は首をかしげ、目をこらして見つめた。 「あ・・・猫?」 さっきまで鞄を持っていただけの斎の胸に、泥だらけの猫が抱かれていた。 (不思議、遠野君、そこに立ってただけのはずなのに) 少なくとも横切ろうとした猫を助けに、車道に飛び出すリアクションは見えなかった。 (まさか、魔法?) 茉理は最近不可思議な出来事が多すぎるし、そのすべてを魔法だと思うようになっていた。 斎も生徒会の一員なら、何らかの魔法が使えておかしくない。
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2007/09/04(Tue) 10:15:34
(さっきの声は、わたしの気のせいかな) 最近疲れ気味なのかも---健全な中学一年生とは思えない大仰なため息をつき、茉理は駅へと向かっていく。 キオスクで滋養強壮剤もどきを一本買い、一気飲みしてる辺りが、もうくたびれたおばさんのようだ。 (あーあ、青春真っ盛りの乙女とは思えない状況よね) 年相応の平凡な日常を帰せーっと、茉理はゆっくりホームに入ってきた電車に向かって、心の中で叫んでしまった。 『年相応の平凡な日常か---面白いこと言うなあ、あの子』 「え!?」 茉理は、思わず振り向いた。 また声がしたのだ。 反対側に来た車両に、乗り込む斎の後姿を見て、茉理は目を丸くした。 (また、遠野君) 彼女は、自分の方向に来た車両に乗らず、斎を見つめてしまう。 彼が乗った電車のドアが閉まった。 過ぎ去っていく車体を見ながら、茉理はしばらく呆然とたたずんでいた。
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2007/09/05(Wed) 10:26:06
特館の屋根の上は、夜景を楽しめる絶好の場所だった。 「ふー、やっと終わった」 英司は伸びをして、屋根の上に寝転んだ。 頭の上に、星が瞬いている。 (あ、カシオペア? 違うか。こんなとこから見えるわけないもんな) 「何をしている」 突然星空が消え、黒い頭が目の前に現れて、英司は飛びおきた。 「うっわーっ、帝! 脅かさないでくださいよ」 雅人先輩に似てきたんじゃないですか、と恨めしそうにみやる彼を、帝はじろっと睨んだ。 「書類、片付けときましたよ」 「ご苦労」 「明日はちゃんと来てくださいよ、もう」 ぶつぶつ言う英司に、帝は少し口元をあげる。 彼なりの微笑だったが、英司は気がつかなかった。 彼の中の帝のイメージは冷徹冷酷、理性の塊にして、感情など怒りしか持っていないように見える。 「何か、変わったことは?」 「いえ、別に」 英司は、とっさに口を瞑った。 (あのことは---茉理って子の知り合いの話は、帝には報告するなって言われてるしな) 帝のことだから、あの茉理という少女に非がないとわかったら、今度は苛立ちまぎれに、別な生徒に当たるかもしれない。茉理と因縁があるとわかれば、彼はターゲットになってしまう。 『これ以上、帝の神経を逆なですることは避けたいしね。いつもはもう少し冷静なやつなんだが、彼女の件に限っては、何やら拘っているしな』 直樹の冷静な判断によって、3人だけの知る情報として、当分隠されることになったのだ。
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