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2007/09/23(Sun) 13:58:13
屋上に、やわらかな風が吹きぬける。 「そろそろ出ておいでよ。まったく覗き見が趣味とはね」 雅人のつぶやきに、黒眼鏡がきらりと光った。 「それは失礼」 気配をまったく感じさせずに、直樹は屋上にある倉庫の影から、長身を現す。 「すみません。雅人先輩。直樹先輩に誘われちゃって」 頭をかきかき、英司も姿を現す。 「おや、英司君も一緒とは――嬉しいね、君が密かにこの僕を、想ってくれていたなんて」 ついっと後輩に近寄ると、端整なあごを指で捕らえて、雅人はにっこり笑った。 「せ、せ、先輩! 別に俺はそういうつもりじゃ」 「隠さなくてもわかっているよ、英司君。この僕が君を捨てて、他のレディとお付き合いなんてするわけがないじゃないか。さあ、もう迷いを捨てて、素直に僕の胸に、飛び込んできたまえ」 「違いますって! どうしてそうなるんですかあっ」 ずいっとせまられ、英司はあたふた、体をばたばたさせた。 「あーあ、連れないの。英司君のいじっぱり!」 「……」 顔を真っ赤にさせて、口をばくばく、呼吸困難に陥っている後輩の髪を、雅人はさらさらとかき回す。 「ほんと、君は、からかいがいがあっておもしろいよ、英司君」 「なっ」 英司は、顔を怒りで滾らせ、どんっと雅人を突き飛ばした。 「いい加減にしてください! いつもいつも――俺で遊ぶのはやめてほしいって言ってるでしょう! 怒りますよ、本気で」 「いいよ、怒った君も十分可愛いから」 (真顔で言うかっ、そんなセリフ) 全然動じてない先輩に、英司は一気に脱力した。
第一巻<14> / TB(-) / CM(-) / ↑
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2007/09/23(Sun) 23:38:31
「もう終わり?」 「……いいですよ、どうせ俺は、単純ばかで、遊ばれるタイプですよ」 開き直った英司の言葉に、雅人はふふっと笑って、彼から離れた。 「痴話げんかは終わったか」 「痴話げんかじゃありません。もう、直樹先輩まで」 「覗き見のおしおきとしては、お前の方が悪趣味だな。ま、いい」 直樹は、じろっと雅人を睨んだ。 「うわさを聞いて、確かめにきたんだが、やはり本当だったんだな」 「彼女のこと? そうだよ」 にっこり罪のない笑顔を浮かべる雅人に、直樹はあらぬ方を見た。 「まったくお前は、たいした策士だよ」 「っていうか、どうしてあの子なんですか? 雅人先輩。俺、さっぱりわからないです」 英司の声に、直樹はつぶやく。 「お前は、帝をつぶしたいのか、それとも生かしたいのか、時々判断に困るよ。今回の件は、どっちなんだが」 「直樹先輩! 雅人先輩が帝先輩をつぶすなんて、そんなこと」 英司は驚いて、声をあげた。 直系にして、本家の跡取り――帝は、自分たちクリスティ一族にとっては、絶対に守るべき大切な存在。 つぶすなんてことは考えられない。一族に対する裏切り行為だ。
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2007/09/23(Sun) 23:41:47
優雅に微笑み、何も答えない雅人に、直樹は真剣に言った。 「分家の代表として進言する。彼女は、まだ早いよ」 「帝の相手として?」 「そうだ、おそらく彼女は」 言いかけたその先を、雅人は目で黙らせた。 「直樹、君の言いたいことはよくわかるよ。でも彼女の出現は、時が来たからだと思わないかい?」 「……」 「いつまでも帝が、あのままでいいと思ってるのかい? あの少女は確かにまだ12歳だけど、帝は14歳、来年には一族の中で成人として認められる15歳だ」 「それはそうだが」 「あの……俺、話についてけないでいるんですけど」 英司が恐る恐る口をはさんだが、一族の中で成人と認められる二人には、にっこり笑ってごまかされた。 「まあまあ、いいじゃん。まだ君は、知らなくていいのよ、英司君」 「大人の話に、子どもが口を出すものじゃない」 「はあっ! ひどいや、二人とも。どうせ、俺、まだ成人じゃないですよ」 英司はすねて、そっぽを向く。 「じゃ、そういうことで」 「……しかたがないな。彼女の件は黙認しよう。だが」 直樹の眼鏡が、渋く光った。 「万が一のときには、お前に責任をとってもらう。それだけは忘れるなよ」 「はいはーい」 雅人は、薔薇をひらひら振って、答える。 (なんか責任とか、オオゴトみたいな感じだけど) 英司は、自称 大人の二人を見ながら、背筋が薄ら寒くなった。
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2007/09/23(Sun) 23:44:25
(冗談じゃないわっ! どうしてわたしが――) 苛立ち紛れに廊下をどしどし歩きながら、茉理は教室に向かっていた。 教室に戻ると、まだクラスメイトの大半は残っていて、うわさに花を咲かせている。 茉理が入っていくと、誰も彼もが好奇な視線を投げてきたが、茉理は心中おだやかならず、無視して、さっさと帰り支度をし、教室を出てしまった。 (やっぱり今日は、13日の金曜日だわ) 明日になれば、このわけのわからない日の呪いもきっと解ける。 そう思いながら、茉理は校門横の桜の前で、立ち止まった。 上を見上げると、少し少なくなった葉の間から、空がぼんやりみえている。 (今日も、いないかあ) それとも人がまったくいない、夕暮れか夜、明け方にならないと出現しないのか。 (それじゃあ、幽霊かお化けよね) そう思って、茉理は瞬間、ぞっとした。 (やだ、まさか、あの少年は、幽霊とかじゃないよね) この桜の木に取り付いてる霊とか――ありえるところが、また怖い。 茉理は、体中が震えてきて、小走りに校門をくぐった。
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2007/09/27(Thu) 10:26:20
「お待ちしてましたわ」 校門を出たところで、茉理は足を止める。 円城寺 美奈子が、彼女をはったと睨んで立っていた。 背後には、お約束の黒塗り高級車。 「後野さん、少しお時間をいただきますわ。あなたときちんと、お話したいんです」 「あの、わたし」 茉理は、美奈子の勢いに、後ずさりながら言った。 「このイベントに参加しないつもりなんですけど、それでもお話しないといけないですか?」 (これ以上、妙なところに行くのは嫌だな) いつでもダッシュで逃げ出せるように、心の準備をした茉理だが――。 「大丈夫。取って食いはしませんから。ただ、お話したいだけです」 美奈子が静かにそう言うと、お決まりのように黒スーツを着たボディガード数人が現れ、彼女を取り囲んだ。 「さ、どうぞ」 車の後部座席の戸を開けられ、茉理は逃げられないことを悟る。 「ご心配なさらずに。お家には、きちんと連絡させていただきますわ。帰りには、ご自宅までお送りします」 (えーっ、うちまで来なくていいよっ) かけ心地抜群の高級シートに座りながら、茉理は心の奥で悲鳴をあげる。 車は校門を出発し、駅を通って、静かな住宅街へと入っていった。
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