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2007/10/02(Tue) 10:03:54
16日の月曜日。 気合を入れて登校した茉理は、すぐさま職員室に行った。 「失礼します」 白い木箱に向かうと、かばんから、大きい茶封筒を引っ張り出す。 中身は、全部メモ用紙だった。 一体何枚あるのか本人にも定かではないが---とにかく大量のメモを、彼女は木箱いっぱいに押し込む。 「これでよしっと」 先生が、あきれた顔で見守る中、意気揚々と茉理は職員室を出て行った。
「朝っぱらから、厄介ごと発生ってね」 雅人は生徒会室、会長の机に、うず高く積まれたメモを見て、くすくす笑った。 「何がおかしい」 「いや、だってさあ、久しぶりに朝、君が生徒会打ち合わせにやってきた日に限って、これだもん。ほんと、彼女ってタイミングよ過ぎだね」 帝は憮然として、メモ用紙を睨んだ。 「貴様のせいだぞ」 「おや、僕は何にもしてないよ」 しれっと薔薇を手に、雅人は言った。 「しらばってくれるな! お前があの女をエントリーなんかするから、こんなことになるんだぞ。先週は最悪だ。美奈子には泣きつかれるし、付きまとわれるし---うっとおしいことこのうえない。今日は今日で、この有様。さっさとあの女のエントリーを取り消せ!」 「いやだね。こんな面白いこと、めったにないし。逃しちゃつまらないでしょ」 「雅人! いつも冗談が通じると思ってるのか。いい加減にしろ」 激昂する帝を、まあまあ、と雅人はなだめた。
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2007/10/03(Wed) 09:17:28
「何興奮してんだか。彼女が嫌なら、去年の美奈子姫で、決めちゃえばいいじゃない」 「それは---」 「可愛いし、君のこと、一途に思ってくれている。魔力も成績も悪くない。一応クリスティの傍系に当たる家の出だし、文句のつけようがない彼女じゃん」 「お前、もしかして俺への嫌がらせか」 帝が、ぎろりと雅人を睨んだ。 「美奈子で決めてしまえと言うのか? そのためにあの女を」 「それは帝の大誤解。僕はちゃんと考えてスカウトしてるんだよ。君のためにね」 「……」 「わかってるくせに。帝、君には彼女が必要だ。後野 茉理がね」 「そんなことは」 「ない、と言い切れないだろう? 本当の君は」 ずばりとつかれ、帝の眉間が少し寄る。 「本当はないぞ、そんなもの、と言いたいんだろうけどね。あーあ、君もつくづく気の毒に。本心がわからないなんて、苦しいものだ」 帝は、黙ってメモ用紙に目をやった。
『生徒会長 伊集院帝様 お話したいことがあります。4時間目が終わったら、屋上に来てください。 もし来なかったら、思いを踏みにじられた女の子の呪いが、あなたに降りかかります。 後野 茉理』
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2007/10/04(Thu) 09:53:02
「しかし、彼女もやるな」 直樹は帝の机に寄ると、メモ用紙を一枚取り上げる。 「これ全部書くのに、どれだけかかったんだろう」 「生徒会専用投書箱、いっぱいでしたもんね」 英司も、ためいき交じりに言った。 「これは行かないと、本当に呪われるぞ、帝」 黒眼鏡が、きらりと光る。 「女と食い物の恨みは恐ろしいからな。その辺の攻撃魔法より手ごわいだろう」 「そうなんですか?」 「英司君、そこで素朴につっこまないように」 雅人は英司に、にっこり笑った。 「どうする、帝。付き添いに英司君をつけようか」 「いらん! 俺を誰だと思ってる」 「そう、残念だったね、英司君。君、振られちゃったよ」 「いや、その方が嬉しいっす」 「どうしてだい。ちゃんとついていかないと、きびだんご、もらえないぞ」 「いりませんっ! てかなんですか、そのきびだんごって」 「あれ、知らないの? 英司君。この国の由緒正しき伝承で――可愛い犬君が、いたいけな少年をナンパするんだ。甘えた声で、つきあってあげるからきびだんごを頂戴ねって」 「そんな話は知りません! 大体俺が犬なら、先輩はなんです、雉ですか?」 「お、いいねえ」 「俺はさしずめ猿ってとこか」 重々しく話をあわせる直樹に、英司は叫ぶ。 「猿でいいんですか! 直樹先輩。猿ですよ!」 「猿は動物の中でも、人間に近く、かなりの知能がある。犬や雉よりは人間扱いされるだろう。文句なくO・Kだ」 (もう嫌だ、こんな人たち) 絶句する英司に、先輩たちは、にっと大人の笑みを漏らした。
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2007/10/05(Fri) 14:36:03
ダンッ。 完全に顔色の変わった帝が、こぶしで机を叩く。 その余波で、メモ用紙がはらはらと飛んだ。 「英司、そのごみを始末しておけ!」 「あ、はい」 「直樹、イベントコースをいくつか見積もっておけ。それから」 きっと帝は、雅人を睨む。 「雅人、お前が俺の代わりに、あいつに会って、用件を聞いて来い!」 「おや、これは意外な展開だね」 「もともとあいつを引っ張り込んだのは、お前だろう。自分で火をつけといて、今更何を言う」 「これは心外だな。元はといえば、原因は君なのに」 すねた口調でつぶやく雅人に、帝は飛びかかり、胸倉を掴んだ。 「わっ、タンマ、暴力反対!」 「これ以上、俺を怒らすな!」 凄みをきかせてじっと睨むと、雅人はためいきをつき、両手をあげた。 「はいはい、降参。わかりましたよ」 でも僕じゃ、用件は言わないと思うけどね、と雅人は、帝の耳にささやいた。 「かまわん」 聞きたくもない、と叫び、帝は雅人を離す。 「俺は、午後忙しい。適当に処理しておけ」 「いってらっしゃい」 雅人の憎らしくも優雅な笑顔に、帝はこぶしを壁に一発叩きつけ、生徒会室を出て行った。
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2007/10/06(Sat) 09:30:42
茉理は四時間目が終わると、すぐ屋上に走っていった。 まだ彼の姿はなく、少しほっとする。 そのまま倉庫の壁にもたれて、青い空を見上げた。 (来るかしら) 言ってやりたいことは、たくさんある。 どこまで言わせてくれるかが、問題だが---。 (いいもん。また暴力とか魔法攻撃とかで中断させたら、こっちにも考えがあるからね) 茉理は、かばんを胸にぎゅっと抱きしめた。 彼女の最大の武器は、この中に入っている。 待つことしばし、屋上の扉がギイッと開いた。 「待たせたな」 憮然とした顔で、帝がやってきた。
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