きつねこぶたの創作部屋

きつねこぶたの創作小説ブログです。ただいま<私立クリスティ 学園シリーズ>を連載しています。
[ <16>−1 ]
2007/10/13(Sat) 09:16:59
 茉理がエントリーされたことは、瞬く間に学園中に広まった。
 ただでさえ、いろいろ目を付けられていたというのに――今や学園中で、茉理の名を知らない生徒はいないぐらいの有名人になってしまう。
(どうして、どうしてこうなっちゃうの!)
 茉理は、毎朝起きるたびにためいきが出た。
 学校に行きたくないという思いが渦巻く。
 それというのも――。
「茉理っ、こないだはごめんね」
「え? 奈々?」
 あきれるほどすばやく、奈々が態度を変えてきたのだ。
 前よりも馴れ馴れしく、腕なんか組んじゃって、彼女に引っ付く。
「わたし、とっても怖くて――だからつい、茉理のこと、遠ざけちゃったけど、本当にごめん。許してね」
「……」
「ね、茉理、わたしたち、親友だよね、そうだよね」
 鼻にかかった甘い声でささやかれ、茉理はどうしたものか戸惑った。
(わたしが、帝先輩の彼女になるかもしれないから……)



第一巻<16> / TB(-) / CM(-) /

[ <16>−2 ]
2007/10/14(Sun) 08:05:53
 奈々の豹変した態度は、あきらかにエントリーのせいだ。
 もしこんなことにならなかったら、彼女は今でも自分を嫌っていることだろう。
 そう思ったら、とても悲しくなった。
(それでも親友って言えるの?)
 誰でも自分に都合の良い者を、親友扱いすることぐらい、茉理だって知っている。
 でもそれは、本当の意味で親友ではない、ということも――。
「ごめん、ちょっと考えさせて」
 茉理は、奈々の腕をさりげなくはずし、そう言うしかなかった。
 奈々に限らず、今まで冷たい視線を送ってきたクラスメイト、先生など、あまりにも接する態度が違うことに、茉理は心痛くてしょうがない。
 以前とは違った意味で、彼女は一人になるたがるようになった。
(もう、誰を信じたらいいの)
 昼休み、お弁当を抱えて、誰も来ない場所を探す。
「そうだ」
 思わず声をあげながら、茉理は駆け出した。
(あそこにしよう)


第一巻<16> / TB(-) / CM(-) /

[ <16>−3 ]
2007/10/15(Mon) 09:19:55
 体育館の隣にある、古風な建物――特館。
 赤レンガの洋館に、ところどころ蔦がからみ、不思議な雰囲気をかもし出していた。
 裏手に回ると、小さな庭とベンチが見える。
 なんでも由緒ある洋館を、取り壊すのはもったいないと、ここに移して特別教室にしたというのが、この建物の由来らしい。
(不思議な場所よね)
 茉理はそっと、特館の壁に触れてみた。
 古風で赴きのある香りがし、彼女は目を閉じる。
(あれ?)
 一瞬、目の前に何かが見えた。
(え……何?)
 それは俊足の速さで、彼女の脳裏を掠めて消えた。
(変なの。何かが一瞬、浮かんだんだけど)
 茉理は首を振ると、裏庭に入っていった。


第一巻<16> / TB(-) / CM(-) /

[ <16>−4 ]
2007/10/16(Tue) 12:39:03
 意外にも、そこは小さな庭園になっていた。
(なんか洋画に出てくるロマンチックな庭だわ)
 学校の隅にある館だから、裏なんて草ぼうぼうだと思っていたのに。
 整った花壇と、白いベンチ。
 白く塗られたアーチには、薔薇が美しく咲き誇っていた。
 ガラスばりの小さな温室まである。
 茉理は、しばらくこの和やかな光景を楽しんだ。
(今度は、紅茶でも持ってこようかな)
 そう思いながら、ベンチに腰掛ける。
 小鳥が数羽、近くの木に止まって啼いた。
『……おいで』
「え?」
『おいで……僕の側に』
 茉理は、突然頭に響いた声に驚いた。
 広げていた弁当箱が、ひざから落ちる。
 反射的に声のしたような気がする方――左を向き、彼女は絶句した。
(嘘、さっきまで誰もいなかったのに――どうして遠野君が!?)
 彼女の心の叫びに、手を伸ばして小鳥を受け止めていた遠野 斎は目を見開く。
『どうしてここに彼女が』
「……」
 茉理を見つめる彼の瞳は、驚きで揺れる。
 二人は互いに硬直し、しばらく見詰め合っていた。



第一巻<16> / TB(-) / CM(-) /

[ <16>−5 ]
2007/10/17(Wed) 09:34:59
「あの……遠野君」
 茉理は、おずおずと声をかけた。
「鳥、好きなの?」
 斎は、黙って彼女を凝視したままだ。
(あ、そうか。しゃべれないんだっけ)
 茉理は思い出し、彼に笑いかけた。
「ごめんね。気にしないで」
 白く、非健康的に見える肌。
 生気のない顔。
 でも瞳には、強い意志が見えていて――そのアンバランスさに、彼女は首をかしげた。
『どうしてここにいるんだ?』
 頭の中に、強い声が響く。
 唇を動かしていないのに、まるで目の前の彼が、しゃべった声のようだ。
 茉理は、思わず答えていた。
「あ、わたし、お昼を一人で食べようと思って。だって校舎は今、ほら、いろいろ面倒なことになってるし」
 斎の顔が、今度は驚愕に包まれた。
『もしかして、僕の思念が通じている!?』
「え? 思念って何?」
 茉理は首を傾けた。
 すると斎は、つっと彼女の前に歩み寄り、更にじっと見つめてきた。
『君は、僕の思っていることがわかるんだね』
「えーと……なんかわかんないけど、頭の中に声が響くっていうか――通じてるみたいだね、あはは」
 最後は笑うしかなくて、茉理は声をあげた。



第一巻<16> / TB(-) / CM(-) /



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