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2007/11/15(Thu) 10:05:00
久しぶりに、雨の音を聞いた気がする。 茉理は、ベッドに身を起こし、ぼーっとした頭でそう思った。 朝だというのに、辺りは薄暗く、じめじめした空気が部屋の中にただよう。 (起きなきゃ。遅刻しちゃう) のろのろと体を起こし、ベッドから出た。 顔は腫れて、目は充血している。見るに耐えない顔だ。 あれからどうやって家に戻ったのか、自分でもよく覚えていなかった。 ずっとあの場に座り込み、彼が消えてしまった場所を見つめ続けた。 (どうしよう……遠野君) 自分のせいで、彼が永久に消えてしまったとしたら――。 遠野 斎は、その存在自体を消す呪いを、生まれる前からかけられている。 歳を重ねるごとに成長した彼の魔力によって、やっと自身の体型をあそこまで維持していたというのに、その力すら失ってしまったのだ。
第一巻<19> / TB(-) / CM(-) / ↑
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2007/11/16(Fri) 15:27:22
歩き出す力が出たのは、背後に何かの気配を感じたせい。 洋館の扉が、ギイイッと音を立てて開いた瞬間、茉理は咄嗟に体育館の方に駆けていった。 体育館の影から覗くと、特館から生徒会の面々が出てくるところだ。 4人は何事もなかったかのように、道を通って校門に向かっていく。 その中に、伊集院 帝の姿を認め、茉理は体中が燃え上がりそうになった。 (あんたね。あんな危険な怪物をわたしたちに嗾けたのは!) 斎が言っていたではないか。 生徒会長の魔獣は強いね、と――。 本家の帝が、斎にかけられた呪いを知らないはずはない。 彼が消えてしまうと知ってて、あんなことをしたんだとしたら。 (許せない……許せないわ! 伊集院帝!) 茉理は、瞼を熱く濡らし、こぶしを握り締めた。 (わたしは、あなたを許さない。このまま遠野君が消滅してしまったら、ただではすまさないからね) 彼女なんて、死んでもごめんだ。 茉理の心は、改めてそう強く決意した。
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2007/11/17(Sat) 12:04:33
沈んだ心のままで、茉理は鞄を手に、家を出た。 お気に入りの水色の傘が、彼女の姿を隠してくれる。 とぼとぼと駅まで歩き、定期券を出して改札に入る。 ホームにいつもと変わらぬ電車が入ってきて、何も考えず、機械的に乗り込んだ。 胸が痛い。 (遠野君……) 今日、きっと彼は、登校出来ないでいるだろう。 いや、来ていたとしても、出席簿につけてもらえるはずがない。 誰にも彼の姿は、見えなくなってしまったのだ。 鞄が置いてあるだけでは、誰が出席してると認めるだろうか。 (わたしのせいだ。ああっ、どうしてこんなことに) 考えてもどうすることも出来ない。 相談相手もいないし――下手に相談したら、あの生徒会長の耳に入って、大事になりそうだ。 (わたし、何にも出来ないね。ごめん、遠野君) 人ごみに押され、駅で降りながら、茉理は悔しげに唇を噛み締めた。 (本当にごめんなさい……)
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2007/11/18(Sun) 07:15:14
「帝、どうしたの? むずかしい顔して」 朝の生徒会室で、帝は黙って窓の外を見つめていた。 校舎に続く道は、登校した生徒たちであふれている。 その中に、後野 茉理の姿を捉え、彼の目が鋭くなった。 (何故あいつは――) 帝の視線の先を見て、雅人は口元をゆがめた。 (ふうーん、とっても気になるみたいだね) 生徒会室には、二人きり。 白薔薇の高貴な香りを吸い込みながら、彼も目を閉じる。 「調べてきてあげようか。君の気になってることを」 「何?」 帝は振り向くと、怪訝そうな顔をした。 「俺が何を気にしてるというんだ?」 「ふふっ、隠さなくてもいいよ、帝。君の心は今、あの少女でいっぱいだ」 にこやかに微笑むと、雅人は薔薇を彼に投げつける。 「僕も少し興味があるんでね。この件は、放課後報告してあげるよ」 じゃ、待っててね、と片手をあげ、雅人は生徒会室を出て行った。 薔薇をキャッチした帝は、ぐしゃっと握りつぶす。 鋭い棘が指先を傷つけたが、そんな痛みもおかまいなしに、彼は薔薇を握りつぶした。 (いつもいつも、雅人の奴――俺のすべてを見透かしやがって) 面白くない。だが、彼ほど自分を理解してくれる存在もない。 複雑な思いを抱えながら、また窓の外に帝は目をやった。
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2007/11/19(Mon) 15:29:07
一時間目は、英語だった。 こないだ斎に貸した辞書を使いながら、茉理は更に心重くなる。 (遠野君……) 彼は今日、登校していなかった。 やっぱり体の消耗が激しいのだろう。 教室に行ってみたけど、鞄すらない。 ため息をつきながら、茉理は教科書に向かった。 その時。 『はあーい、レディ。ご機嫌いかがかな』 「!?」 茉理は突然頭の中に響いた声に驚き、椅子からずり落ちてしまった。 「どうした、後野」 英語の教師が目を瞬かせ、茉理を見る。 「あ……すみません。ちょっとつまづいて」 あわてて立ち上がり、椅子に座りなおす。 (今の声――遠野君じゃないよね) 嫌な予感が、頭をよぎる。 聞き覚えのあるこの口調はまさか――。 『ピンポーン、正解。僕だよ、伊集院 雅人』 ボキッ。 持ってたシャーペンの芯が、その瞬間折れた。
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