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2008/01/17(Thu) 09:18:17
保健室は何時来ても、静かで落ち着いた場所だ。 「あら、どうしたの? 早川さん」 保健室担当教師、三河 みちるは微笑むと、入ってきた女生徒を迎える。 「すみません。また少し気分が……」 白く病的な表情を浮かべ、響子はふらっと体を揺らす。 「ま、大変。とりあえず熱を測りましょう」 あわてて彼女を支え、みちるは体温計を出す。 耳にあて、電子音が鳴るのを待った。 (本当に綺麗で、絵になる子だわ) 横で彼女を見つめながら、みちるは思う。 やわらかな黒髪は、さらさらと腰まで流れ、制服の襟とプリーツはいつもきちんと整えられ、一筋の乱れもない。 細身で、少し心細げな彼女は、まさしく今時にめずらしい深窓のお嬢様のようだ。 「熱はないようね。また貧血かしら」 「いつもいつも……先生、わたし、大丈夫でしょうか」 悲しそうに、少女は俯く。 「帝様からお声がかかったというのに、わたし――こんな風では、とても帝様の婚約者にはなれないんじゃないでしょうか。たとえ選ばれても、あの方の重荷にしかならないような気がするのです」 女の子らしいしぐさに、みちるの中から暖かな気持ちがあふれる。 母性本能とでもいうのか――不安げなこの少女を支え、励ましてやりたくなった。
第一巻<22> / TB(-) / CM(-) / ↑
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2008/01/18(Fri) 10:21:40
「大丈夫よ、早川さん」 みちるは彼女の肩を抱き、やさしく言った。 「あなたは十分素質があるわ。魔力だって、あなたにかなう者など、この学校にはいなくてよ。帝様もそれをよくご存知で、あなたを候補にされたのでしょ? 先生は、あなたがきっと帝様のお相手に選ばれると信じているわ。自信を持って」 ベッドに連れて行かれながら、少女は綺麗な口元に薄く笑みを浮かべる。 それが清純というよりは、いささか悪魔的な笑みであったことには、みちるはまったく気付かなかった。
『――というわけでね』 「なんか信じられないんですけど」 駅のホームで、斎は手のひらの蛙を茉理に見せていた。 日直の日誌を提出して、帰りが遅くなった茉理と、斎は偶然ホームで出会ったのだ。 『信じるもなにも、ほら、これ』 「ほんとだ、ちゃんと薔薇の花、咥えてる」 茉理は、ふふっと笑った。 「ほんとの蛙は、薔薇なんか見向きもしないもんね。間違いなく、これ、雅人先輩だわ」 「げこげこげこっ」 蛙が薔薇を口から離して、叫ぶ。
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2008/01/19(Sat) 11:41:05
「あ、そうだ」 茉理は思いついた。 「ね、蛙でも、頭の中は雅人先輩でしょ。だったら、あれ、出来るんじゃないかな」 『あれ?』 「うん、思念会話。遠野君とは、言葉を交わせないかもだけど、わたし、こないだ雅人先輩と思念会話が出来たんだよね」 『そうなの?』 「そうですよね、雅人先輩」 『覚えてくれていたんだね、レディ』 蛙はぴょこん、と茉理に飛びついた。 『君の記憶の片隅に、僕の存在があるなんて! それが確認出来ただけでも、僕は今、幸せでいっぱいだよ。ああっ、蛙になったこの身を、一瞬前までは後悔していたんだけど、こうして僕の気持ちを受け止めてくれる可愛いレディに会えるなんて、僕はなんて幸せな蛙なんだ』 「……とんでもないこと、思いついちゃったかも」 頭の中に延々と響き渡るセリフにうんざりして、茉理はため息をつく。 側で斎が、くすくす笑った。
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2008/01/19(Sat) 20:28:43
『あ、電車、来た』 「ほんとだ。じゃあ、遠野君、また明日ね」 茉理は手を振ると、自分の家に向かう電車に乗り込む。 人ごみに紛れ、見えなくなる彼女を目で追いながら、斎は心が高鳴るのを感じた。 (こんな風に誰かと挨拶できるなんて、夢みたいだ) 誰かに手を振られ、じゃあ、また明日、と言ってもらえるなんてことは、思ってもみなかった。 (後野さんのおかげで、僕も少しずつ変わってきた) 彼女と関わるようになってから、世界が広がったというかなんというか。 満ち足りた思いで、ホームを去り行く電車を見送る。 そんな彼を、雅人がえるは目を瞬かせ、手のひらの上から、じっと見つめていた。
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2008/01/19(Sat) 20:33:35
人気のない保健室で、直樹は三河 みちる教師と向き合っていた。 あいかわらず彼は黒眼鏡をかけ、無表情で座っている。 「早川さん、最近よく来るのよ。元々体が弱い子なんだけど、エントリーされたこともあって、緊張してるみたいね」 みちるはそう言うと、直樹をじっと見た。 「彼女を推薦したのは、あなただと聞いたわ、直樹君。やはり早川さんの資質に期待してのことでしょ? 彼女が、クリスティ本家を将来背負う帝様には必要と思ったから」 「まあ、そういうことになるのかな」 表情を崩さない彼の落ち着いた声に、みちるは気おされまいと姿勢を正す。 「これは個人的な意見だけど、早川さんは本当にいい子よ。少し健康に注意しないといけない部分もあるけれど、直樹君が、彼女をよく支えてあげて欲しいの」 「……」 「例の一件、さっき早川さんから聞いたわ。自分でも止められなかったと言ってた。泣きながら、ベッドの中で」 「先生に、彼女が話したんですか」 「そうよ。あんなこと、してしまったのを、彼女自身も後悔していたわ――でもどうしても、あの子を見てたら、止められなかったって」
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