きつねこぶたの創作部屋

きつねこぶたの創作小説ブログです。ただいま<私立クリスティ 学園シリーズ>を連載しています。
[ <24>−1 ]
2008/02/14(Thu) 16:24:26
 純日本風の家屋は、なにやら物静かな感じがする。
 離れの座敷に通されて、直樹は漠然とそう感じた。
 目の前に座っている少年のせいかもしれないが――。
 卓を挟んで向かい側に、早川 明人が座っていた。
 人目を引きそうな容姿を持ちながら、何故か彼にはおぼろげな所があった。
 軽く浮かべる笑みも、数分のちには泡のごとく消えてしまいそうな――そんな実体のない何かを持っている存在。
「せっかく先輩がおいで下さったのに、妹がいなくて恐縮です」
 大人びた口調で、彼は少し頭を下げた。
「いや、気にしないでくれ。たいした用じゃないしね」
(むしろ好都合だな)
 直樹は眼鏡のフレームを指であげつつ、微笑んだ。
 そう、自分は、早川 響子ではなく、彼にも興味があった。
 一度彼女のいないときに、明人と会っておきたいと思っていたのだが、意外と早くその機会が来たことに、自分でも内心驚いている。


 追記:日記帳に、つたないものですが、バレンタイン限定SSをアップしています。
     お時間のある方は、そちらもどうぞ。

第一巻<24> / TB(-) / CM(-) /

[ <24>−2 ]
2008/02/15(Fri) 09:02:11
「君も驚いただろう。響子さんが、いきなりエントリーされて」
「そうですね。でも妹は、僕と違って優秀です。帝様の良いお力になると思うのです」
 何の屈託もない笑顔で、彼はそうつぶやく。
「いいのかい? 帝に響子さんを渡してしまって」
 冷めかけた茶を口にしつつ、さりげなく聞くと、明人は不思議そうな顔をした。
「響子にとっては、いいことじゃないですか。帝様なら、響子を大事にしてくださるでしょうし、兄貴としては嬉しい限りです」
「兄貴として、はね」
 直樹は湯のみを置くと、明人を真正面から見た。
「単刀直入に聞くけど、君は響子さんを、どう思ってるんだい?」
「どうって……妹です。それだけですよ」
 少々挑むように、目を光らせながら、明人は答えた。
「気を悪くしたらすまないが、校内に嫌なうわさが飛び交っていてね。一応確認しておきたかったんだ」
「先輩も、あんな変な醜聞を信じるのですか。僕が響子を兄としてではなく、一人の男として想っていると?」
「君は、早川家の養子だそうじゃないか。世間から見たら、養子ってのは、上に『婿』もつけられるからね」



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[ <24>−3 ]
2008/02/16(Sat) 13:50:06
 激しい反論を予測していた直樹だが、予想に反して、明人は目を伏せただけだった。
「……僕は、本当に響子とは何でもないんです。信じてください」
 消え入るような声が、耳に届く。
 直樹はため息をつくと、微笑んで言った。
「君にその気持ちがないことは、よくわかったよ。変なことを聞いて、こちらこそすまない」
「いいえ……」
 俯き、明人はしばらく顔をあげなかった。
 池の鯉が跳ねる音すら聞こえてくるほどの、長く重い沈黙が続く。
(こんなことだけで終わるわけにはいかないな)
 せっかくの機会だ。
 あのことを確かめねば。




第一巻<24> / TB(-) / CM(-) /

[ <24>−4 ]
2008/02/17(Sun) 14:19:38
 直樹は心を決めると、沈黙を破った。
「そういえば君は、幼い頃の記憶がないそうだね」
「はい」
 明人は顔をあげ、うなずく。
「ここに引き取られてくる以前の記憶が、僕にはありません。母が再婚した当時は覚えていたはずなのに――いつの間にか少しずつ、記憶が薄くなって、消えてしまったんです」
「そうか」
「でも別に日常に支障はないし、大体のことは母から聞いています。住んでいたところとか、通っていた小学校のこととか」
「思い出したくはないかい?」
 直樹の問いに、明人は目を瞬かせた。
「思い出せるんですか。母とあちこち病院やカウンセリングを回ったんですが、何の変化もありませんでした。もうむずかしいんじゃないかと思っていたんです」




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[ <24>−5 ]
2008/02/18(Mon) 13:02:17
「そうか。いや、それならむずかしいだろうな」
 直樹は自嘲気味につぶやくと、すっと右手を彼の顔の前にかざした。
「失礼」
 そう言うと、口の中で呪文をつぶやく。
「――早世の時より生命を育みし水の力よ、彼の内に流れし水流よ、我に内実を明かせ!」
 カッとかざした手のひらから光が発し、明人の瞳が虚ろになった。
 手のひらから魔力を放出し、直樹は彼の額に幾筋も流れる毛細血管の流れに、己の意識を乗せる。
 脳に達するまで、一瞬の間だった。
 記憶を担当する部分を探り出し、中を透視する。
(ふん……やはりな)
 直樹は、自分の脳裏にイメージとして送り込まれる、明人の記憶の状態を感知して思った。
(過去の記憶は、ほとんどすべて抹消されている。何を目的にしたのか――過去の魔族であることに対するショックを消そうとしたのか、それとも)
 考えながら、奥へ意識を潜らせると、ある部分にたどり着いた。
(これは……なんだ? ここだけ記憶が封印されている)
 ほとんどの記憶は消されているのに、そこだけは堅く閉じられていて、進入出来ない。
(大事な記憶――おそらく自分がどうしても忘れたくないことを、ここに封じて保護したのだろう。魔力による消去攻撃から守るために……)




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