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2008/03/18(Tue) 20:25:39
放課後になった。 (結局戻ってきたわけね) 茉理は教科書をそろえてかばんに入れながら、軽く息をついた。 5時間目が終わったあと、消えた教科書とノートが、また机の上に出現したのだ。 (やっぱり『死んだゴキブリ』効果は、高かったのかしら) 茉理はかばんを持つと、教室を出た。 うーんと伸びをして、廊下を歩く。 ふと校庭を見ると、特館が目に入った。 古びた趣のある洋館は、今、つつじの植え込みが満開で、綺麗だった。 (ちょっと寄っていこうかな。いい天気だし) 茉理はそう考えて、足を特館に向けた。
第一巻<26> / TB(-) / CM(-) / ↑
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2008/03/18(Tue) 20:26:49
「失礼しました」 日直の日誌を担任に渡すと、英司はほっと一息ついた。 (えーとあとは……) 彼は小型PCを取り出し、キーを打って画面を出す。 そこには迷惑きわまりないメッセージが残されていた。 【ヤッホー、僕の愛する英司君、本日は野球部の練習試合につきあってくれたまえ。ああ、それから必ずホームランを三本は決めてくれよ。じゃあね。雅人より】 (野球か――あんまり好きじゃないんだけどな) 英司はため息をつく。 彼の持ち前の運動神経を持ってすれば、たいていのスポーツは文句なくこなせるが、それでも本人の好き嫌いはあるというものだ。 (しゃーないよな。こんな生活、いつまで続くんだろ?) 直樹のスプレー効果は、当分切れそうもないし。 がっくり肩を落としながら、英司は変身するために、男子トイレに入っていった。
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2008/03/19(Wed) 23:28:48
小さな白いベンチには、暖かな日差しが注がれていた。 茉理は鞄を横に置くと、ベンチに座って、のどかな風景を楽しむ。 外観はつつじが咲き乱れていたが、裏のこの庭には薔薇がいっぱいだった。 向こうに見える温室には、まだ入ったことはないが、きっとあそこも綺麗だろう、と茉理は想像する。 せっかくなので、図書室から借りてきた本を引っ張り出した。 【魔法の国の巫女姫】 童話みたいな児童書は、今の茉理の読書レベルにぴったりだ。 表紙は若葉色で、金の飾り文字で題目が書かれている。 そこまで厚みはなさそうだったので、今度の読書感想文の宿題はこれにしようと決め、借りてきてあった。 そっと彼女は、ページを開く。 (うわっ、綺麗……) 見開きの幻想的な絵に、彼女は魅せられた。 どこかの聖堂を思わせる、祭壇のある大広間。 たくさんの風変わりな衣装をつけた魔法使いたちが、皆そろって跪いていた。 彼らの前には、黒いローブを纏った銀色の髪の少女が立っている。 (【5ページより、聖魔巫女に拝謁する魔族達】か。この女の子が、主人公なのね) 茉理は、そっと指で少女の絵に触れた。 気のせいか、彼女の瞳は赤くルビーに輝き、そしてとても悲しそうだ。 (この本って、ハッピーエンドじゃなかったりして……)
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2008/03/20(Thu) 12:58:29
悲しい話は、いまいちなんだけど、と思いながら、茉理はページをめくった。 するとまた挿絵があった。 今度は、先ほどの少女が二人、描かれている。 双子と思うほど左右対称で、二人の少女は寄り添っていた。 一人は銀の髪、一人は真っ黒な闇色の髪。 瞳の色もそれぞれ違うが、輪郭、悲しそうな表情はすべて同じで、纏うローブも同じだった。 (双子だったのかな) 茉理は、ちらりと絵を見ると、またページをめくった。 今度は、乙女心をくすぐる絵だった。 銀の髪の少女が横向きに立っており、足元に騎士のような青年が跪いている。 彼は少女のローブの裾をうやうやしく持つと、誓いをするかのように、それに口付けていた。 (恋愛物語なのかな) ますます好奇心をそそられて、茉理はページをめくる。 すると今度も、また絵だった。 (本文まで行くまでに、あとどれだけ絵なのかしら……でもこの絵って)
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2008/03/21(Fri) 09:27:25
茉理は、息を飲み込んだ。 次に現れた絵は、あまり情操教育に良さそうなものではなかった。 黒髪の少女が、黒いマントをつけた美青年に、抱きしめられている。 少女の瞳からは涙が流れ、口元は苦痛で歪んでいた。 美青年は少女の喉元に、キスをしているかのように唇をあてがっている。 でもその口元からは、真っ赤な血が一筋たれている――そんなまがまがしい絵だった。 茉理の脳裏に、その絵はあまりにも鮮明に映った。 『巫女姫よ、わたしの永遠の愛をうけるがいい』 『愛しい方、どうぞわたくしをあなたの物に――これはわたくしが選んだ運命です。誰にも止められない、そして後悔しない道なのです』 『姫』 『どうぞ、あなたの唇で、わたくしをあなたの一族にしてください』 「だ、だめええーっ!」 咄嗟に悲鳴をあげ、茉理は本を地面にたたきつけた。 はあ、はあ、はあ……。 茉理は、体を両手で抱え、震えた。 目からは何故か涙が流れる。 (どうしちゃったの……わたし) どうしてか、この絵をみた瞬間。 その情景が、現実にあった出来事のように、脳内に再現された。 そして心の奥底から這い上がってくる嫌悪感と悲しみは一体――。 (なんだったの? この本は何よ!)
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