きつねこぶたの創作部屋

きつねこぶたの創作小説ブログです。ただいま<私立クリスティ 学園シリーズ>を連載しています。
[ <26>−1 ]
2008/03/18(Tue) 20:25:39
 放課後になった。
(結局戻ってきたわけね)
 茉理は教科書をそろえてかばんに入れながら、軽く息をついた。
 5時間目が終わったあと、消えた教科書とノートが、また机の上に出現したのだ。
(やっぱり『死んだゴキブリ』効果は、高かったのかしら)
 茉理はかばんを持つと、教室を出た。
 うーんと伸びをして、廊下を歩く。
 ふと校庭を見ると、特館が目に入った。
 古びた趣のある洋館は、今、つつじの植え込みが満開で、綺麗だった。
(ちょっと寄っていこうかな。いい天気だし)
 茉理はそう考えて、足を特館に向けた。


第一巻<26> / TB(-) / CM(-) /

[ <26>−2 ]
2008/03/18(Tue) 20:26:49
「失礼しました」
 日直の日誌を担任に渡すと、英司はほっと一息ついた。
(えーとあとは……)
 彼は小型PCを取り出し、キーを打って画面を出す。
 そこには迷惑きわまりないメッセージが残されていた。
【ヤッホー、僕の愛する英司君、本日は野球部の練習試合につきあってくれたまえ。ああ、それから必ずホームランを三本は決めてくれよ。じゃあね。雅人より】
(野球か――あんまり好きじゃないんだけどな)
 英司はため息をつく。
 彼の持ち前の運動神経を持ってすれば、たいていのスポーツは文句なくこなせるが、それでも本人の好き嫌いはあるというものだ。
(しゃーないよな。こんな生活、いつまで続くんだろ?)
 直樹のスプレー効果は、当分切れそうもないし。
 がっくり肩を落としながら、英司は変身するために、男子トイレに入っていった。





第一巻<26> / TB(-) / CM(-) /

[ <26>−3 ]
2008/03/19(Wed) 23:28:48
 小さな白いベンチには、暖かな日差しが注がれていた。
 茉理は鞄を横に置くと、ベンチに座って、のどかな風景を楽しむ。
 外観はつつじが咲き乱れていたが、裏のこの庭には薔薇がいっぱいだった。
 向こうに見える温室には、まだ入ったことはないが、きっとあそこも綺麗だろう、と茉理は想像する。
 せっかくなので、図書室から借りてきた本を引っ張り出した。
【魔法の国の巫女姫】
 童話みたいな児童書は、今の茉理の読書レベルにぴったりだ。
 表紙は若葉色で、金の飾り文字で題目が書かれている。
 そこまで厚みはなさそうだったので、今度の読書感想文の宿題はこれにしようと決め、借りてきてあった。
 そっと彼女は、ページを開く。
(うわっ、綺麗……)
 見開きの幻想的な絵に、彼女は魅せられた。
 どこかの聖堂を思わせる、祭壇のある大広間。
 たくさんの風変わりな衣装をつけた魔法使いたちが、皆そろって跪いていた。
 彼らの前には、黒いローブを纏った銀色の髪の少女が立っている。
(【5ページより、聖魔巫女に拝謁する魔族達】か。この女の子が、主人公なのね)
 茉理は、そっと指で少女の絵に触れた。
 気のせいか、彼女の瞳は赤くルビーに輝き、そしてとても悲しそうだ。
(この本って、ハッピーエンドじゃなかったりして……)



第一巻<26> / TB(-) / CM(-) /

[ <26>−4 ]
2008/03/20(Thu) 12:58:29
 悲しい話は、いまいちなんだけど、と思いながら、茉理はページをめくった。
 するとまた挿絵があった。
 今度は、先ほどの少女が二人、描かれている。
 双子と思うほど左右対称で、二人の少女は寄り添っていた。
 一人は銀の髪、一人は真っ黒な闇色の髪。
 瞳の色もそれぞれ違うが、輪郭、悲しそうな表情はすべて同じで、纏うローブも同じだった。
(双子だったのかな)
 茉理は、ちらりと絵を見ると、またページをめくった。
 今度は、乙女心をくすぐる絵だった。
 銀の髪の少女が横向きに立っており、足元に騎士のような青年が跪いている。
 彼は少女のローブの裾をうやうやしく持つと、誓いをするかのように、それに口付けていた。
(恋愛物語なのかな)
 ますます好奇心をそそられて、茉理はページをめくる。
 すると今度も、また絵だった。
(本文まで行くまでに、あとどれだけ絵なのかしら……でもこの絵って)



第一巻<26> / TB(-) / CM(-) /

[ <26>−5 ]
2008/03/21(Fri) 09:27:25
 茉理は、息を飲み込んだ。
 次に現れた絵は、あまり情操教育に良さそうなものではなかった。
 黒髪の少女が、黒いマントをつけた美青年に、抱きしめられている。
 少女の瞳からは涙が流れ、口元は苦痛で歪んでいた。
 美青年は少女の喉元に、キスをしているかのように唇をあてがっている。
 でもその口元からは、真っ赤な血が一筋たれている――そんなまがまがしい絵だった。
 茉理の脳裏に、その絵はあまりにも鮮明に映った。
『巫女姫よ、わたしの永遠の愛をうけるがいい』
『愛しい方、どうぞわたくしをあなたの物に――これはわたくしが選んだ運命です。誰にも止められない、そして後悔しない道なのです』
『姫』
『どうぞ、あなたの唇で、わたくしをあなたの一族にしてください』
「だ、だめええーっ!」
 咄嗟に悲鳴をあげ、茉理は本を地面にたたきつけた。
 はあ、はあ、はあ……。
 茉理は、体を両手で抱え、震えた。
 目からは何故か涙が流れる。
(どうしちゃったの……わたし)
 どうしてか、この絵をみた瞬間。
 その情景が、現実にあった出来事のように、脳内に再現された。
 そして心の奥底から這い上がってくる嫌悪感と悲しみは一体――。
(なんだったの? この本は何よ!)




第一巻<26> / TB(-) / CM(-) /



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