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2008/05/03(Sat) 10:11:49
うわさは広まりはしたが、すぐに誤解ということで収まった。 生徒会長の校内放送は強力だったし、雅人もあれから自粛しているのか、女の子と一緒にいるところをみかけることはなかった。 (この行動は、当然といえば当然であった。何しろ今の彼は、女生徒に接して、悲鳴を上げさせるわけにはいかない身だったからである) 英司は3日間、家で監禁状態にあったが、帝が理事会に出頭し、責任者としてきちんと指導出来なかったと謝罪し、彼の『今後二度とこういう不肖なうわさは、流さないことを厳重に注意します』との確約の末、英司は自由の身となった。 収まらないのは、茉理だ。 (こんなことで終わっちゃうなんて!) 本当はもっとこの機会に、よく反省してもらいたい、そう彼女は考えていた。 しかしあっさりうわさは消え、雅人はまた元のように元気に登校している。 クラスメイトはただのデマだと憤慨し、雅人と英司に対して同情の声もあがる始末。 (みんな、あんないい加減男のどこがいいのかしら) つくづく理解が出来ない茉理であった。
第一巻<29> / TB(-) / CM(-) / ↑
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2008/05/03(Sat) 10:13:42
「さすがに少しは慎んでるみたいだな、雅人」 昼休みの生徒会室で、直樹は束になったプリントを整理していた。 「まあね、でも一件落着というわけには――ああっ、どうしたらいいんだ。僕の可愛い英司君ときたら、この僕とは口も利いてくれないんだよ」 「そのぐらいはしょうがないだろ。うわさが収まったことで、とりあえず満足してろ」 「あいかわらず冷たいなあ、直樹君。少しは」 「同情と慰めの言葉を、俺に期待する方が、馬鹿だって、お前が一番よく知ってると思ったが」 冷たく黒眼鏡が光る。 雅人は、はあああっ、と大仰にため息をつくと、また円卓に陥没した。 「あー、この机って冷たくて、気持ちがいいなあ。ちょうど今の僕には、この冷たさが心地よく感じるよ」 「後野 茉理はどうした。ちゃんと釈明しといたんだろうな」 「うーん」 雅人は唸り、卓から顔をあげようとしない。 (ま、むずかしいだろうな。普通の少女に、こいつを理解しろってのは不可能だろう) 直樹は聞く必要もない話題を振ってしまったと首を振り、プリントの仕分けに集中した。
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2008/05/03(Sat) 10:19:08
(さあって、もうすぐ5時間目だわ) 茉理は軽く伸びをし、首を前後にふった。 中学生なんだけど、肩が重く感じる今日この頃である。 『後野さん?』 頭に響いてきた声に、茉理は瞬時に反応した。 『あ……遠野君?』 『あのさ、もしかして、今日、放課後、開いてる?』 『え?』 茉理は、思わず聞き返した。 『忙しいならいいんだけど、もし良かったら、どこか遊びにでもいかないかと思って』 「え……ええええーっ!」 大声をあげて、茉理は立ち上がってしまい、教室にいたクラスメイトたちの注目をあびてしまう。 『あの、別にいいけど、突然どうしたの?』 『いや、その……ちょっと後野さんと話したいかなって』 声は、とても一生懸命だ。 茉理は、またきちんと椅子に座り、うーんと考え込む。 (これってデートのお誘いじゃないわよね。うん、まさか、あの遠野君が) きっとこないだの一件だろう。 『いいよ。じゃ、授業終わったら、駅で待ってる。学校内だと目立つでしょ』 ただでさえ自分は奇妙な目で見られているというのに、これ以上余計な目線を増やしたくなかったのだ。 『ううん、家に帰って、着替えてからの方がいいな』 『そ……そう?』 茉理は戸惑いながら、わかった、じゃ、あとで、と返事を返し、5時間目に使う教科書の準備をした。
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2008/05/06(Tue) 14:38:38
放課後になった。 「斎はどうした?」 生徒会室に集まった面々を見て、帝が声をかける。 「ああ、彼ならデート中だよ」 「でーとだと?」 声色を変えた帝に気付き、雅人は面白そうに付け加えた。 「そうそう、後野 茉理姫と。いやー、斎もけっこうやるね」 がたっ。 帝は席を立つと、雅人につかつかと歩み寄り、胸倉をつかみあげた。 「俺にケンカを売ってるのか? ええ?」 「わっ、ちょっとタンマ! 暴力反対!」 あわてて雅人は、帝の手を自分から離す。 「落ち着け、帝」 直樹が、横から沈静した。 「別にお前の彼女候補を、斎はどうこうしたりしないさ。雅人と英司の件を、きちんと釈明しに行っただけのこと。ま、そいつを殴りたければ、俺は止めないけどね」 ほとんど諸悪の根源はこいつだし、と冷たく付け加えられ、雅人は肩をすくめる。 「ひどいなあ、直樹君。親友の僕を、見捨てる気かい?」 「俺の親友になりたいなら、もう少し言葉を慎め。今のはお前が悪い。わざと帝を挑発したろ。帝、お前もこんな奴の挑発に乗るな。もう少し冷静になれ」 唯一このメンバーの中でまともそうな彼の発言に、二人は納まり、とりあえずまた席に着いた。 帝は腕を組み、勤めてクールさを装っているものの、内心いらついてるのが、こめかみの動きでわかる。 (やれやれ。また後野 茉理か) 直樹は、こそっと胸のうちでつぶやいた。 (やはり雅人じゃないけど、帝はそうとう彼女を意識してるようだな。円城寺や早川が、もし男と会っていると報告されたとしても、これほどまでには熱くならんだろう) そしてもし、帝の運命の相手が彼女なら。 (おそらく動き出すな) 直樹はPCを叩きながら、一人静かに闘志を燃やしていた。
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2008/05/07(Wed) 09:36:42
茉理は連れて来られた場所を見て、目を丸くした。 学校が終わって着替えてから、三時過ぎにこんな遠くまで――XXランドまで行くことになるとは思わなかった。 (そうよね。遠野君だって、普段は電車で通学してるみたいだけど、クリスティ一族だったわ) 彼の親しみやすい外見に、すっかり忘れていたのだが――。
着替えて、家のすぐ近くの交差点で待っていると、それなりに目立つ黒塗り高級車が颯爽と現れた。 (ちょっと待って! わたし、こんな格好で……) 茉理は、一瞬身をひいてしまう。 少し暑くなってきたので、彼女はTシャツにジーンズ、薄めの白いジャケットを羽織った、いわゆるシンプル庶民ファッション。 足はシューズで、別におしゃれでもなんでもない、スーバーのセールで買った普通のだ。 (わ、ワンピでも、着てくればよかったのかしら) 一瞬デートかと思った自分に笑いがこみあげ、どうせその辺の公園で、ジュース片手にベンチでおしゃべりだと、こういう格好をしてきたのだが。 『どうぞ、後野さん』 すっと斎が車から降りてきて、後頭部座席のドアを開けてくれる。 (うっ、なんかすごく気まずいんですけど) 茉理は顔を赤らめながら、座席に座った。 かけ心地満点のシートには、滑らかなシルクのカバーがかかっている。 斎は、白と青のストライプのシャツと黒のスラックスで、足元は黒革っぽい靴で決めていた。 さりげなく首にプラチナのチェーンが見えており、それがきらきら光ってなんともおしゃれだ。 (えーん、中一に見えないよ、この人も) 相変わらず白くて生気のない顔をしていたが、今日はそれすらも引き立ってみえる。 茉理は、あまりにもそぐわない自分の容姿と比べて、この場から逃げ出したくなった。 (きっとこういうかっこいい男の子には、可愛いお嬢様タイプが横にいるといいのよね)
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