きつねこぶたの創作部屋

きつねこぶたの創作小説ブログです。ただいま<私立クリスティ 学園シリーズ>を連載しています。
[ <30>−1 ]
2008/05/17(Sat) 13:26:45
「お兄ちゃん!?」
 茉理の声に、彼は雑誌から顔をあげる。
 じっと向かいに立つ少女を見つめた。
「君は……?」
 少女は、向かいのベンチから駆けてきて、息を切らせている。
「あ、あの、お兄ちゃんでしょ、そうでしょ」
「え?」
「わたしよっ、茉理。お兄ちゃんが小学3年まで、隣に住んでた後野 茉理よっ」
 彼女は叫んで、彼の手をとった。
「ね、お兄ちゃんでしょ、間違いないわ」
「あの、君は一体……」
 彼――明人は、目を瞬かせる。
「後野……茉理?」
「そうよ、お兄ちゃん、会いたかったわ」
 茉理は、がばっと彼に抱きついた。
「お、おいっ」
 雑誌を取り落とし、明人はあわてて茉理を受け止め、困惑する。
「会いたかった――やっと会えた」
 茉理は、涙をぼろぼろこぼしながらつぶやいた。
「わたし、お兄ちゃんにどうしても会いたくて、クリスティに転入してきちゃった。今、1年A組なんだよ」
「クリスティに? 君、僕と同じ学校なの?」
 明人の返事に、茉理は顔をあげ、彼を見た。
 あきらかに困った顔をしている。




第一巻<30> / TB(-) / CM(-) /

[ <30>−2 ]
2008/05/18(Sun) 20:03:16
「あの、お兄ちゃん――水沢、じゃなくて、早川 明人さんですよね」
「そうだよ。僕は2年B組の早川 明人だ」
 少し微笑みながら、彼は茉理を離した。
「どうやら君は、僕の過去を知ってる人みたいだね」
「え?」
「実は僕には、過去の記憶がないんだ。クリスティに転入したくらいのことは覚えてるんだけど、それ以前のことはまったく」
「ええええーっ!」
 茉理は、思いっきり叫んだ。
「そんな……そんなことって……」
「ごめん。だから君と会ってたのかもしれないんだけど、思い出せない」
 茉理は、呆然と立ちすくんだ
 やっと会えたのに。
 彼に会うために引越しし、必死に勉強して入学試験を受けた。
 そのあとの学園生活は、おせじにも良かったとは言えない中で。
 それにも耐えて、ひたすら彼に会うために、今日まで来たというのに。
 やっと会えた初恋の人は、自分のことを何一つ覚えていなかったのだ。




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[ <30>−3 ]
2008/05/19(Mon) 09:51:18
「嘘……うそよね、お兄ちゃん」
 茉理は、へなへなとその場に膝をついてしまう。
「やだよ、お兄ちゃんがわたしのこと、忘れちゃってるなんて……やだよ……ぐすっ」
 ぼろぼろぼろぼろ、涙が止まらない。
 大きな瞳を更にゆがめて、茉理は泣き続けた。
 そんな彼女の頭に、大きな手のひらが乗る。
「泣かないで……大丈夫」
 明人の手が、茉理の頭を何度も撫でた。
 そう、この手だ。
 いつも自分の手を取って、公園に、幼稚園に、小学校につないでいった。
 悲しくて泣いてるときには、いつもこうして頭を撫でてくれた。
(大丈夫って、何度も今みたいに言ってくれた。わたしは、この手を知ってる。間違いなく、大好きなお兄ちゃんの手――)
 記憶をなくしていても、変わっていない。
 その暖かさと、心配そうにやさしく見つめる瞳は。



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[ <30>−4 ]
2008/05/20(Tue) 09:41:15
 茉理は、涙をぐいっとぬぐうと微笑んだ。
「ごめんなさい、突然泣いちゃって」
「ううん、謝るのは、きっと僕の方だから」
 明人は、茉理にハンカチを貸してくれる。
 茉理は目をふいて、少し落ち着く。
「あの、記憶がなくなったって」
「うん、そうなんだ。いつのまにかね」
 明人は寂しそうに、遠くの海に目をやった。
「それでも前は、少しは覚えていたこともあったけど――しばらくたつと、みんな消えてしまったんだ。思い出したくて、あちこち病院とか、カウンセリングとか、お袋とまわったんだけどね」
「あ、恵美おばさんは、どうしてます? お元気ですか」
 茉理は、明人と同じ優しい目をしていた彼の母親を思い出した。
「お袋? うん、元気にしてると思う。今は新しい父と一緒に、外国にいるけどね」
「そうなんですか」



第一巻<30> / TB(-) / CM(-) /

[ <30>−5 ]
2008/05/21(Wed) 13:29:48
 茉理は、はっとして、ポーチから手紙を出した。
 それを明人の手に押し付ける。
「これ、お兄ちゃん――じゃなかった、早川先輩が、わたしにくれた手紙なんです」
「僕が君に?」
「はい」
 明人は、古い手紙を開いてみた。
 まだ小学生の文字が、彼の目に飛び込んでくる。
 なんどか読み返し、彼はふっとひたいを押さえた。
「くっ……なんだ、これは」
「どうしたんですか?」
「うっ……頭が……頭が割れる!」
 彼は手紙を落とすと、ベンチから崩れ落ち、頭を抱えて、うずくまってしまう。
「お兄ちゃん!? 大丈夫?」
 茉理は、彼を支えるように抱えた。
 背中をさすり、声をかける。
「お兄ちゃん、しっかりして」
 彼はますますうめき、頭をかきむしりながら苦しみだした。
(どうしよう。このままじゃお兄ちゃんが!)



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