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2008/06/06(Fri) 11:59:52
突然の訪問だったが、帝の邸の対応は完璧だった。 すぐに豪華なディナー4人分が用意され、泊まる個室も整えられる。 分家への連絡は執事が代理で通達し、斎の家にも1週間ほど斎が姿を消すことが説明された。 「ふう、とりあえず戦闘準備完了かな」 各自、満足のいく食事を終え、部屋でシャワーを浴びて、帝の私室に集合する。 雅人は、大きな窓から見える夜空に、薔薇の花をかざして言った。 「今夜も星が綺麗だね。でもあの星々の輝きは、はるか昔にこの地球へ放たれていたメッセージ――過去の残像だと思うと、少し寂しくなるな。本当はもう煌く星達は、宇宙に留まっていないもかもしれないじゃないか。この瞳で直接見ることがかなわないとは、時間と空間の壁のなんと厚きことだろう!」 「……すみません、俺、雅人先輩が何言ってるのか、さっぱりわからないんですけど」 「気にするな、英司。こいつはいつも意味不明だ」 深く考えると頭がおかしくなるぞ、と直樹は諭す。 「二人とも、僕の高尚な言葉の意味を理解出来ないなんて、なんて嘆かわしいことだ」 大げさに体を抱きしめ、悲しみにくれる雅人を、3人は冷たい目で睨む。 「茶番は、そこまでにしろ。本題に入るぞ」 「そうだね、つきあってたら徹夜になってしまうからね」 直樹がそう言うと同時に、部屋にメイドが入ってきた。 彼女は、大理石の卓にグラスとグレープジュースを置くと、去っていく。
第一巻<32> / TB(-) / CM(-) / ↑
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2008/06/07(Sat) 09:30:18
帝を中心に、3人はソファに座り、グラスを傾けた。 「あー、美味しい」 「よく冷えてるな」 「やっぱ帝のところの自家製ジュースは最高だね。でも僕と直樹は魔族の成人なんだから、ワインでも良かったのにな」 「お前は外へ出てろ! そんなに飲みたきゃ、一人で地下に行って来い」 帝の鋭い視線に、雅人は肩をすくめる。 「でも本音は、俺もワインが欲しい気分だよ、帝」 直樹の言葉に、帝はすっと目を彼に注いだ。 「お前にそこまで言わせるとは、事態はかなり深刻ということだな」 「ああ。それも最悪に近い状態だ」 直樹はメガネをはずすと、軽く眉間を押さえた。 下を向き、顔をあげない直樹に、3人の心配そうな視線が突き刺さる。 しばらくして、直樹はまたメガネをかけなおし、冷静な口調に戻った。 「帝、俺は――俺たちは、お前の手足になって、助け手となり、お前の行く道を阻むものは、どんな障害でもつぶす覚悟がある。そのために生きているのだからな」 「いきなりなんだ」 いぶかしむ帝に、まあ、聞いてくれ、と直樹は続ける。 「時にはお前の心を乱すかもしれない内容は、あえて俺達だけで手を汚して、処理してしまうこともあるし、そうすべきだと俺は思ってきた。だが」 直樹の口元が、少し歪んだ。 「今回の件は、もうそういうわけにはいかなくなった。俺の手で始末してしまおうと思っていたのだが、帝、どうもお前の手を煩わせなければならなくなりそうだ。俺の力不足と認識の甘さのせいだ。……すまない」
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2008/06/09(Mon) 09:16:09
静かに頭を下げる直樹に、帝はグラスをとん、と卓に置き、怒鳴った。 「なんだそれは! 俺には、いつも何も隠すなと言ってあるだろう? どうして俺を蚊帳の外におくんだ。俺だって、お前たちの仲間だろうが」 「それは違うよ、帝」 激昂する帝を、雅人の声が制す。 「君は違うんだ。僕たちとは役割がね」 「何?」 「これは僕たちクリスティに課せられた使命と関係がある。君は、どうしても失ってはならない大切な存在なんだ。別に君を仲間はずれにしてるんじゃなくて、君だけにしか出来ないことがあるからなんだよ。僕たちがいなくなっても、かわりはいくらでも利くんだ。でも君はそういうわけにはいかない」 「……」 「ま、そういう細かいことは、来年成人の儀式のときに、教えてもらうといいよ。それまでは、僕たちにも何も言えない。ただ、そういうわけだから、直樹にはあやまらせてやってくれ。そうしないと、彼の気がすまないだろうからね」 「――わかった」 成人の儀式の時に告げられる、一族の宿命という内容になったので、帝は不承不承おとなしくなった。
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2008/06/09(Mon) 09:18:05
「では、これから本題に入る」 直樹は、いつもの冷静な口調で言った。 「まず結果から説明しようか。さっき斎があんなに力を使い果たしてしまったことなんだが」 「もったいつけずに、さっさと教えてください!」 英司が、怒りもあらわに息巻く。 「どこの誰が、斎をあんな風にしたんですか。俺が絶対ただじゃおかないから」 「まあまあ、落ち着いて、英司君」 すっと横から、薔薇の花が差し出された。 「君の後輩を想う気持ちは素晴らしいけど、ちゃんと落ち着いて最後まで聞こうね。さ、直樹君、続けてくれたまえ」 話の腰を折られて、直樹はむっとしたが、眼鏡をかけ直し、続けた。 「今日、あいつは後野 茉理をXXランドに連れていった。夕食後、ハーブ園で話をしようと思ったらしい。ベンチに後野 茉理を座らせると、斎はスタンドにハーブティーを買いに行った」 「なかなかおしゃれな場所を選んだね。斎君も、やるじゃないか」 「スタンドは、少し混んでいて――ハ−ブティーを買って、後野 茉理のところに戻ったとき、なんとそこには早川 響子がいた」 「何?」 「えーっ、早川さんが?」 「それはまた、なんという運命のいたずらだろうか」 最後の少しセリフめいた雅人の発言に、直樹はため息をつく。
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2008/06/10(Tue) 11:43:09
「そして、その時後野 茉理は早川 響子の術にかかり――異次元に転送されてしまった」 その場の全員が絶句した。 「い・・・異次元転送?」 「まさか、そんな大技を」 「ていうか、そこまでするか? たかがライバルってだけで」 三人の困惑気味な顔に、直樹は悲しげに笑う。 「後野 茉理は、早川 響子にとって、一番この世から消えて欲しい存在なんだ。ただのライバルではない」 「どういうことだ?」 帝の険しい声に、直樹はうつむき、つぶやいた。 「帝、すまないな。お前に隠してたことがある。それは後野 茉理の編入理由だ」 さっと雅人と英司の顔が変わる。 帝は目を細め、三人を見回した。 「お前達、全員知ってたんだな!」 「別にたいした情報でもないと思ってね。それに帝、お前があの後野 茉理に対して、ひとかたならぬ関心を示していることは、おまえ自身が認めたくなくても、まわりの俺達にはよくわかってしまうんだ」 「なんだと」 「彼女が絡むと、お前は冷静さを欠き、むきになって行動する傾向がある。もしこの情報を知ったら、お前が状況判断を誤るかもしれないと危惧したんだ」 「……俺は別に、あんな女のことなど」 「そうやって、赤くならなくてもいいでしょうが、み・か・ど」 「そうですよ、帝。確かに後野さんのことでは、いつも過剰な対応してしまうのが、みえまくりです」 英司にまで言われてしまい、帝はぐっとつまる。
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