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2008/06/24(Tue) 13:17:01
まるで何事もなかったのように、一夜が明けた。 朝食の席で、3人が考えたことは、まず雅人のことだった。 (うまくやってるかな、雅人先輩) 英司は、トーストをほおばりながら、気になってしょうがない。 (ご家族のみなさんに、ばれてないといいけれど――) 直樹は黙々と食事を済ませ、調べ物があるから先に行くぞ、と席を立つ。 帝も無言で食事を済ませた。 (まったくどうしてあんな女を、助けてやらなきゃいけないのだ!) このまま異次元に飛ばしておきたいところだが、そうなると雅人が戻ってこれなくなる。 彼は彼で、なんだが苛立っていた。 昨日は夢心地に気分が良かったような思いもするのだが、今の彼の中にうずまくのは、なんだがよくわからないあせりと苛立つ心のみ。 (ええいっ、どうして俺が、こんなに心を騒がせなくちゃならない。冷静になれ。俺は魔族の総帥クリスティの本家跡取りなんだぞ) こんなことでどうする、と自分を叱咤しながら、彼は学校へと続く道を歩いていった。
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2008/06/25(Wed) 15:29:55
心配することもなく、雅人は順調に午前中を済ませた。 「はあい、みんな、元気?」 あいかわらずの女言葉で、彼はにこにこ生徒会室にやってくる。 「あ、後野さん――じゃなかった、雅人先輩」 大丈夫でしたか? と心配そうに聞いてくる英司を、彼はぎゅっと抱きしめた。 「可愛い英司先輩に、こんなに思われるなんて、わたし、とっても幸せです」 「ちょっ、後野さん――じゃなくて、雅人先輩、やめてください」 外見が女の子だからか、心持ち顔を赤らめて、英司は彼の腕を振り解こうとする。 いつもよりソフトなしぐさに、ふふっ、効果ばっちりだねえ、と雅人は笑い、自分の変身技術の高さに改めて満足した。 「それより帝は?」 「書庫で調べ物だ。異次元通路を開く手段を、いくつか見繕っているんだろう」 直樹の言葉に、雅人扮する茉理は、薔薇の花を取り出す。 香りを堪能するしぐさに、英司は横でうーんとうなった。 (どうでもいいけど、薔薇の花があんまり似合わない子だよなあ) いつもの彼女がそんなことをするはずないから、余計違和感があるのかもしれないが、どうも後野 茉理と薔薇の花は、いまいちイメージがはずれていた。
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2008/06/26(Thu) 14:42:57
雅人は気にすることなく、薔薇を弄びながらつぶやく。 「そうそう、英司先輩、悪いんですけど、今日の午後、委員会に出てもらえませんか。本当のわたしの姿で」 「うっ」 「しょうがないでしょ。これは特別。帝の許可ももらってあるし――委員長が出なかったら、話し合いにならないもの」 ウインクして、『よ・ろ・し・く』と微笑まれ、英司はため息をついた。 「でね、そのための書類が職員室のコピー機の横にあるんですけど、委員の数だけコピー、よろしくお願いしまーす」 「って、この昼休みにやれってことですかあっ」 「あら、もうお弁当、食べ終わったじゃない」 あくまで女の子らしく、少しいじわるな笑みを浮かべて、雅人はさらりと言い流す。 「お願いしますね、英司先輩」 やれやれ、と肩を落とし、英司は生徒会室を出て行った。 (もし本当に後野さんが、帝の彼女になったとしたら――) さっきの雅人のしぐさは、後野 茉理本人そのものに見える。 (俺ってもしかして、雑用増えるんじゃないかなあ。後野さん、ああ見えてけっこう人使い荒そうだし) 職員室に向かって歩きながら、いっそう肩が重くなる英司であった。
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2008/06/27(Fri) 15:00:47
「英司をはずして、俺に何を言いたいんだ?」 PCを打つ手を止めて、直樹は雅人扮する茉理をじろっと見た。 「ふふっ、よくわかってるねえ、直樹君」 ふわっと笑むと、パチンと茉理は指を鳴らす。 「後野家は、なかなか面白いとこだったよ」 元の金色派手な髪をさらりとかきあげ、雅人は優雅に微笑んだ。 「その姿の方が、話しやすいな。で、どうだった?」 「ご両親は、父親に少し魔力のかけらを感じたけど――ま、本人に自覚がないから、普通の人間だね。母親、及び祖母の方には、まったく魔力は感じなかった」 「そうか、やはりな」 直樹は、メガネをきらりとさせる。 「父親は平凡なサラリーマン、母親はパートで近所のスーパー勤め。家には少しぼけの入ったおばあちゃんが、いつも留守番をしている。おばあちゃんは、以前は徘徊し、いなくなることいなくなることもあったけど、たいてい数日後には自力で戻ってくるし、あぶないことはしないみたいだから、監視をつける必要なし、とみなされている。確かに一応、つじつまの合わないことを言うし、ぼけているようにみえる」 「みえる?」 「――そういことだね。どうしてぼけ老人指定されてるのか、実は僕にはわからなかった。あんなにマトモに話すのに」 「……」 「家族が気がつかないなんて、よっぽどお互いのことに干渉しない家庭なんだろうか。あれはもう筋金入りのお芝居だよ。それもかなり年季が入った」
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2008/06/28(Sat) 11:41:44
「なんで後野 茉理の祖母は、ぼけてる振りなんかしてるんだ?」 「さあね、僕の存在にも気付いたようだ。表向きはにこにこしてたが、けっこう夜とか探りを入れてきたしね。ひやひやだったよ」 雅人は思い出したのか、うっと顔をしかめた。 「部屋に枕を持ってやってきて、一緒に寝よう、と言うんだ。参ったね、可愛い少女なら大感激だけど、とうのたったばあさんと添い寝だぜ」 「良かったな」 女好きのお前には、さぞ嬉しかっただろう、と直樹が言うと、嫌味かそれは、と雅人は渋い顔をする。 「ともかくばあさんは、要注意だ。昨日は何もしてこなかったけど、今夜辺り危ないな」 「というか、そもそも魔力がないんだ。何も出来るわけないだろう」 直樹の言葉に、雅人は憂いを秘めた顔になる。 「もっとやっかいな力があるでしょうが。どうするんだよ、僕の魔力が無効化されてしまったら」 「ま、おそらくそうはならんだろうさ。もし無効化されても変身が解けるぐらいで、命の危険はまずあるまい。ばあさんが、俺達の予想通りだとしたら、まずお前を害することは出来ない」 直樹はそう言うと、にやりと笑った。 「そして俺達がクリスティ一族の血を受け継ぐ者だと知ったら、手を出すどころか歓迎されるかもな」
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