きつねこぶたの創作部屋

きつねこぶたの創作小説ブログです。ただいま<私立クリスティ 学園シリーズ>を連載しています。
[ <7>−10 ]
2007/08/01(Wed) 10:18:38
「えー、彼は1年E組 遠野 斎君。生徒会臨時書記です。よろしく」
 英司の説明に、みな、一斉に斎を見た。
 しかし彼は一言も話さず、どこか遠くを目で追いながら、微動だにしない。
「やっぱり声がかかったか」
「でもあんなんで勤まるのか? 生徒会」
 ひそひそささやく声が、茉理の耳に入る。
「あいつ、声出せないんだぜ」
「なんか不気味なやつだよな。笑ったとこなんて、一度もないらしいぜ」
「怖わーっ、なんか幽霊みたいだよね」
 悪意にやっかみ、あくまでも彼を異質なものとして見ている感じだ。
(なんかやな感じ。あんたたちの同族でしょうが)
 茉理は、陰口をたたく生徒たちの方をちろりと睨んだ。
「以上で全体集会を終わります」
 英司の閉めの言葉に、周囲はがやがやとにぎやかになった。
 A組から体育館の外に出る。
 一人で教室に戻りながら、茉理は空を仰いだ。
(すっごい全体集会だったわね)
 薔薇の花は降ってくるわ、突風は吹くわ、人は消えるわ、大騒ぎ。
 果ては人体実験志願者募集とまで来た。
(やっぱりここって変な学校!)
 改めて茉理は、そう認識するのだった。


第一巻<7> / TB(-) / CM(-) /

[ <7>−11 ]
2007/08/02(Thu) 08:39:38
 家に帰ると、両親はいなかった。
『茉理ちゃん、お父さんと会社の会食にいってきます。夕食はお鍋の中よ。おばあちゃんとよろしくね』
 食卓に置かれたメモを見て、茉理は肩をすくめる。
「はいはいっと」
 コンロの上の鍋には、どっぷりカレーが入っていた。
 時計を見ると、まだ5時。
(でもお腹すいたな)
 手早くカレーを温め、二人分用意する。
「おばあちゃーん、夕ご飯だよ」
 隣の部屋で、テレビを見ていたおばあちゃんを呼び、食卓に座らせた。
「はいはい、ミヨちゃん、いつもありがとう」
「ミヨちゃんじゃないんだけどね」
 茉理はいつものおばあちゃんの口ぐせに一応突っ込み、カレーを出した。
「はい、今日はちょっと早いけど、どうぞ」
「いただきます」
 おばあちゃんは、きちんと両手を合わせてから、スプーンを持つ。
「あー、おいしい。ねえ、ミヨちゃん、こんなの食べたの、久しぶりだねえ」
「こないだも出たよ」
 茉理は、口からこぼれそうになっているカレーを拭いてあげた。



第一巻<7> / TB(-) / CM(-) /

[ <7>−12 ]
2007/08/03(Fri) 00:41:33
「気をつけて、おばあちゃん」
「はいはい」
 茉理の祖母---後野 籐子は、茉理が生まれると同時に呆けてしまったそうだ。
 母の話だと、それ以前からおかしな兆候はあったそうだが、茉理誕生後、症状が悪化し、茉理が物心ついたころには、わけがわからない状態に陥った。
 ふいにいなくなり、皆を騒がせたことも数回ある。
「ねえ、おばあちゃん」
 カレーをかき混ぜながら、茉理は話しかける。
「わたしの学校って、とっても変なんだよ」
「ミヨちゃんは、幼稚園だったよねえ」
 おばあちゃんは、にこにこあいづちを打つ。
 この祖母なら、誰にも言えないことを言っても心配ない。
 茉理にとって、祖母の存在は心の支えになっていたりした。
「あんなに入りたいって言ってた学校だから、こんなこと、お母さんたちには言えないんだけど---って、言っても信じてもらえないだろうけど」
 茉理はためいきをつきながら、皿のカレーを更に混ぜた。



第一巻<7> / TB(-) / CM(-) /

[ <7>−13 ]
2007/08/04(Sat) 10:58:42
「今日ね、全体集会があったんだけどね。なんか生徒会の人たちって、超へんなんだ。魔法が使えるんだって」
「へえ、そりゃあ、すごいねえ」
 おばあちゃんは、感心したようにお水を飲んだ。
「それで?」
「それでね、今日なんて」
 茉理は、一連の出来事をつぶさに話し、あーあ、と天井を仰いだ。
「わたし、これからどうなっちゃうんだろう。ね、おばあちゃん」
 彼女の憂い顔に、一瞬祖母の瞳がきらりと光る。
 だが、済まして籐子は、お水のグラスに手を伸ばし、お茶を飲むようにすすった。
「あー、やっぱり食後のお茶はおいしいねえ」
 そんなのんきな様子を見て、茉理はほおっと息を吐き、笑った。
「やっぱりおばあちゃんに話してほっとした。なんかすっきりするのよね、誰かに話すと」
「・・・・・・」
「明日もがんばろうっと。そうよ、負けてなんかいられない。お兄ちゃんに、明日こそ会うんだから」
 気合を入れて、カレーをかきこむ孫の姿を、じっと籐子は見つめていた。

第一巻<7> / TB(-) / CM(-) /

[ <8>−1 ]
2007/08/05(Sun) 16:07:48
「やあ」
 ゴールデンウイーク明けの昼休み。
 中等部特館の最上部---早い話が屋根の上で、小さな密会が持たれていた。
「僕をこんな所に呼び出すなんて、直樹君、君はなんて罪な人なんだ。君の秘めたる熱い想いを受け止めるには、まだ僕は、心の準備が出来ていないというのに」
「お前は今度、魔法薬入りの紅茶を進呈した方がよさそうだな」
 メガネを指で上げながら、暗い声で直樹が脅す。
「君も帝と同じで冗談がわからない男だね」
 やれやれ、がっかりした表情の雅人に、直樹は憮然とした顔で言った。
「お前と違って俺は忙しい。用件は手短に言う」
「はいはい」
 つれないの、と口を尖らせる雅人を無視し、直樹は続けた。
「後野 茉理の件。調査してみた結果、彼女は白と判明した」
 雅人の瞳が、きらりと輝く。
「それは確かなわけ?」
「ああ、50代にわたって先祖を探ってみたが、まったくの白。魔族の係累と血筋が交わった形跡はなし」
「なんだ、それ」
 怪訝そうな雅人に、直樹もうなずいてみせた。
「ああ、おかしいほどだろう?」
「そこまでまったく魔族のご先祖がいないってのも、めずらしいね」
 普通、どこかで一人や二人は、知らずに魔族係累の先祖と交わっているはずなのだが、彼女はまったくその気配がないのだ。



第一巻<8> / TB(-) / CM(-) /

[ <8>−2 ]
2007/08/06(Mon) 07:37:48
「故意、かな」
「かもしれん。あるいはまったくの偶然かも」
 直樹は、むずかしい顔をする。
「とにかく今の段階では、彼女は魔力のかけらも持たず、魔族となんのかかわりも持たない少女ということだ」
「ふーん」
 つまらなそうに薔薇を弄ぶ雅人を見やり、直樹は立ち上がる。
「以上。俺は行くよ」
 彼は、すっと屋根から飛び降りた。
「はーい、ごきげんよう」
 ひらひら〜とポケットから白ハンカチを出し、当たり前のように雅人は振ってやる。
 誰もいなくなった屋根の上、久しぶりに真剣な顔で、彼は薔薇の花を空にかざした。
「後野 茉理・・・か」
 おもしろくなってきた。
 彼の中の何かが、高揚して止まらない。
 いつのまにか、彼の持つ赤い薔薇が、その色のごとく煙を上げて燃え上がっていた。



第一巻<8> / TB(-) / CM(-) /

[ <8>−3 ]
2007/08/07(Tue) 22:50:52
 キーンコーンカーンコーン。
 昼休みの終わりを告げるチャイムが、校舎中に響き渡った。
(あーあ)
 今日も、ぼろぼろになった制服を、茉理は恨めしそうに見る。
 午前中に受けた魔法攻撃で、もう彼女は頭の先から足の先までぐしょぐしょのよれよれだった。
 1時間目、数学。
 当てられた問題が解けなくて困っている彼女の頭に、突然水の入ったバケツが現れた。
 バケツは、すかさず大量の水を彼女に浴びせる。
 クラスメイトの嘲笑を浴びながら、彼女はまたも叱られて、廊下に立たねばならなかった。
(もう! 先生も先生よ! わたしが水を出したんじゃないことぐらい、わかるでしょうに!)
 どこの馬鹿が、問題が出来ないからって、自分で水をかぶるなんていたずらをするかっていうのよ!
 まったく理解しない教師にも腹が立つ。
 2時間目は英語の小テスト。答案を書こうとすると、シャーペンが消えてしまう。
「あ、あれ?」
 あわててかわりを出そうと筆箱を覗くと、中身がごっそり消えていた。
(なんで? どうして!?)
 誰かが貸してくれるはずもなく、茉理は答案を白紙で出さねばならず---やっぱり教師に見咎められ、休み時間呼び出しをくらって、こってりとしぼられた。
 いくら説明しても、わかってもらえない。




第一巻<8> / TB(-) / CM(-) /

[ <8>−4 ]
2007/08/08(Wed) 09:18:11
 ふてくされながら、受けた3時間目は体育。
 今日は球技でバスケだったが、茉理がシュートしようとすると、ボールが必ず教師の頭目がけて正確に飛んでいく。
「すみません!」
 最初は気をつけろ、ぐらいだったが、毎回そうなので、ついに教師に頬を叩かれた。
「なんだ、お前は! うらみでもあるのか!」
 かんかんになった体育教師によって、放課後体育館の掃除を言いつけられる。
 ぐったりしながらの4時間目は、さすがに静かになったと思ったらとんでもない。
 今度は古典だったが、突然茉理のカバンから、弁当箱が飛び出したのだ。
 ガシャーン。
 派手な音を立て、床にころがる弁当箱に、教師の目が注がれる。
 茉理も、あわてふためいた。
(なんでわたしのお弁当があっ!)
 これでお昼が台無し---ってか、それどころじゃない!
 今度は、早弁をしていたとあらぬ疑いをかけられ、教室の後ろに立たされた。
 それも両手に水入りバケツのおまけつき。
(今時、こんなんで後ろに立たすなんて)
 はあっとためいきをつきつつ、腕の重みに閉口していると---。
 突然バケツが動きだし、またまた彼女の両側から水を浴びせてきた。
(もういやっ)
 茉理はうんざりしながら、びしょぬれになったおぞましい自分の姿を見た。
 ここ数日毎日のことなので、体操服から制服も、スペアを何枚か持ってきてはいるが、さすがに今度ばかりは着替えがなかった。



第一巻<8> / TB(-) / CM(-) /

[ <8>−5 ]
2007/08/09(Thu) 10:58:03
 昼休みは、日当たりの良い屋上にて服を乾かしたが、今度は体が宙に浮く。
「な・・・なんなの?」
 突然宙に浮くと、体はそのまま屋上を飛び出して、地面に叩きつけられそうになった。
「きゃああーっ」
 今度こそ死ぬ、と思ったとき、ふっと体が軽くなる。
「え?」
 コンクリ通路の脇に生えていた木の枝に、スカートのすそがひっかかったのだ。
(ふう)
 助かった、と息をつく暇もなく、今度は枝がみしみし折れ、地面にどしんとしりもちをつくはめに。
「あーあ」
 余計にすごくなった己の姿を見て、もはやため息しか出ない彼女であった。
(このままじゃ、お兄ちゃんに会えないじゃない)
 少し弱気になりそうな自分を奮い立たせようと、彼女はこぶしをにぎりしめる。
 チャイムが鳴って、教室に戻りながら、茉理は決心を固めていた。



第一巻<8> / TB(-) / CM(-) /

[ <8>ー6 ]
2007/08/10(Fri) 08:06:56

 放課後。
 決意も固く、少女は職員室に入る。
「失礼します」
 教師の目線をものともせず、彼女は白い木箱に向かった。
 職員室横の長机に、それはぽつんと置かれている。
 箱の横に添えられた白いメモ用紙に、さっと書き込むと、彼女は木箱に放り込んだ。
「失礼しました」
 用件を済ませ、すばやく職員室を出る。
 教師たちの間から、ほっとした安堵の息がつかれたことなど、知る由もなく---。

第一巻<8> / TB(-) / CM(-) /

[ <8>−7 ]
2007/08/11(Sat) 09:32:01
「やれやれ」
 雅人は面白そうに、メモ用紙を見やった。
「何がおかしい」
 憮然とした様子の帝。横で肩をすぼめる英司。
 表情を変えずに、メモ用紙を集計するのは直樹だ。
「今日で、12枚・・・と。一日平均2枚の割合かな、この投書」
「なかなかめげないね、彼女」
 雅人は、薔薇の花を優雅に投げる。
 積まれたメモ用紙の上に、それはふんわりと落ちた。
「根性だけは認めますよ。毎日毎日・・・ねえ、帝」
 英司がつぶやくと、帝は鼻を鳴らす。
「俺をここまで挑発するなんて、その度胸だけはほめてやるぜ」
「それにしてもすごいよねえ、これって果し合いでもするのかな?」
 雅人は一枚を拾って、芝居ががった口調で読み上げた。


『生徒会会長 伊集院 帝様
 わたしは、あなたに何も悪いことはしていません。
 あの黒板消しを落としたのは、わたしではありません。
 このおかしな魔法攻撃を、直ちに中止してください。
 どうしても納得出来ないのなら、一度わたしと会って、きちんと話をしてください。
 それも一人で出来ないくらい、わたしが怖いのなら、付き添い付きでもいいですから。
 ぜひご検討ください。それでは失礼します。1年A組 後野 茉理』


第一巻<8> / TB(-) / CM(-) /

[ <8>−8 ]
2007/08/12(Sun) 14:17:54
「完全に、君に対する挑戦だねえ、どうする? 帝」
 面白そうに雅人は言った。
「受ける? それとも」
 ちろりと流し目で、彼を見る。
「いつまでもこのまま、影から嫌がらせして楽しむかい?」
「ふざけるな!」
 帝の大声が、生徒会室の窓ガラスを揺らす。
「あの恥知らずの女に、自分の身の程をわからせてやる!」
「そうこなくっちゃ。で、付き添いは? 僕が行こうか?」
 おもしろそうだし、と微笑む雅人を、帝はぎろりと睨んだ。
「いらん! 俺を誰だと思ってるんだ!」
 息を整え、彼は足音荒く、生徒会室を出て行った。
「やれやれ」
 帝が消えると、雅人はにやりと笑う。
「それにしても、ほんと彼女って面白い子だねえ」
「ああ。帝の性格を、よく理解しているよ」
 眼鏡のフレームをあげて、直樹はつぶやいた。
「あんな風に書かれちゃあ、嫌でも一人で行かざるをえないですよね」
 英司は窓の外を見る。
 帝が戦闘態勢で歩いていくのが、よく見えた。
「でも後野さんだっけ? 帝に殺されなきゃいいですけどね」
「さて、彼女に運があれば大丈夫だろ?」
 にべもなく直樹が言い捨てると、生徒会室は沈黙で満ちた。


第一巻<8> / TB(-) / CM(-) /

[ <9>−1 ]
2007/08/13(Mon) 13:47:36
「よく来たわね」
「それはこっちの台詞だ」
 放課後の屋上。
 茉理は、目の前の相手を、はったと睨んでみせた。
(負けるもんですか!)
 ここでどうしても誤解をとかないと。
 そうしなければ、お兄ちゃんに会いにもいけない。
 彼女は、必死に心を燃え上がらせた。
「で、会長一人なの? 付き添いは?」
「ふざけるな!」
 ざわっと周囲の風がざわめき立つ。
 茉理は、じっと相手を見つめた。
 その目だけが、彼女の最大の武器。
 強い意志だけが、彼女の力となるものだったから。
 茉理の並々ならぬ気配を感じ取ったのか、帝は周囲の風を納めた。
「で? 今更俺に何を弁解する気だ? 言い逃れなどできないぞ」
「そんなことする気もないわ。わたし、あなたに何もしてないもの」
 茉理は受けて立つ。
「何もしてないだと?」
「そうよ、わたしがあの黒板消しを落としたんじゃないわ。そんなこともわからないなんて、あなた、本当に魔力あるの?」
 挑発すると、帝は毛を逆立てた猫のようにいきり立った。
「貴様、この俺を侮辱するとは、いい度胸だ!」
「じゃ、あなたの魔力を使って、真実を突き止めてみせなさいよ。本当にわたしが落としたという証拠を、わたしの前に出してみなさい! そしたらわたしも潔く、あなたの魔法攻撃を受けようじゃないの。そうじゃなきゃ、絶対に絶対に認めないからねっ」
「・・・・・・」



第一巻<9> / TB(-) / CM(-) /

[ <9>−2 ]
2007/08/14(Tue) 08:57:02
「そのぐらい出来るんでしょ? 会長は、一番魔力があるんでしょ? それとも出来ない? ふーん、あなたって、その程度の魔法使いなんだ」
「ふざけるな!」
「怒鳴ってばっかしか出来ないなんて最低ね」
「貴様・・・」
「あーら、本当のこと言われて悔しい? 悔しかったら、さっさと証拠を出して頂戴」
 悔しいが、彼女に何も言い返せず、彼は煮え立つ心を歯を食いしばって耐えていた。
(この女・・・)
「ふーん、やっぱり出来ないんだ。その程度なんだ〜」
 あからさまな挑発に、帝の感情が爆発する。
「いいか、俺様に出来ないことはない! 見てろ、すぐさま証拠を掴んできてやる。そのときには覚えておけ!」
「いいわよ。でもそれまで、魔法攻撃はおあずけってことよね」
「・・・・・・」
「だってそうでしょ? 悪いかどうかわからない相手に対して、攻撃するって最悪よねえ。そういうの、なんて言うか知ってる? 無差別攻撃っていうのよ。うわあっ、会長って、見境なく攻撃する悪い魔法使いさんだったのね。クリスティってそんな人だったんだ」



第一巻<9> / TB(-) / CM(-) /

[ <9>−3 ]
2007/08/15(Wed) 11:18:42
 茉理が会長 帝に挑戦したことは、3日もしないうちに全校生徒に広まっていた。
 当然、皆驚きで、目を瞬かせる。
 こんなことは、今までの学校生活で一度もなかったのだ。
(おい、帝様に挑むなんてさあ)
(ちょっとすごいぞ、あいつ)
 皆の茉理を見る目が、少し変わっていた。
 クラスメイトは興味津々だ。
 何しろほとんどみんなが、茉理が潔白なことを知っている。
(帝様のことだもん。きっとすぐに真実は明らかになるわよ)
(でも、そしたらどうなるのかなあ、川本さん)
 皆のざわめきが、茉理の心に一抹の影を落とした。
 そうなのだ。
 自分の潔白は証明されるが、その分、親友と思ってきた彼女のことがわかってしまう。
 そうしたら帝は、奈々に矛先を変え、攻撃するのだろうか。
 毎朝、登校するたびに、奈々の顔が青ざめていく。
 朝、廊下でそれを見るたび、茉理は胸が痛かった。
 正直自業自得とも思う。
 黒板消しを落としてしまい、そのことを茉理のせいにしてしまったのは、他ならぬ彼女だ。
 もうお互い親友とは呼び合えない間柄になってしまい、心苦しいものがある。
(それもこれも、みんなあんたのせいよ)
 茉理は心の奥で、生徒会長に毒づいた。
(あんたさえ、変なことで怒ったりしなければ、こんなことにはならなかったんですからね。まったくプライドが変に高い人間って、嫌になっちゃう)
 ためいきをつきながら、彼女は授業の準備をするのだった。



第一巻<9> / TB(-) / CM(-) /

[ <9>−4 ]
2007/08/16(Thu) 10:56:08
 廊下でためいきをついている人間が、茉理の他にもう一人いた。
 生徒会書記 山下 英司。
「参ったなあ」
「やるせないためいきだねえ、英司君」
 いきなり耳元でささやかれ、彼は飛び上がった。
「ちょっ、ちょっとっ、先輩っ、おどかさないでください」
「リアクションがまたいいね、その驚いた表情なんて、最高だよ」
 満足そうに笑う雅人を、英司がぎろっと睨んだ。
「もう! ふざけるのも対外にしてください」
 こっちの気も知らないで、とぶつぶつ言う英司に、雅人は笑ってみせた。
「君は本当に可愛いね。今度お兄ちゃんとデートしない?」
「はあ? 馬鹿な事言ってないで、とっとと消えてください!」
 でないと本当に消しますよ、といつにもなく凄みのある声で怒鳴られ、雅人は眉を吊り上げた。
「ふーん、そんなに機嫌が悪いなんて、英司君らしくないね。さては例の一件かな」
「・・・・・・」
「図星か。まあ、そうだろうと思ってたけど」
 雅人の言葉に、英司は神妙にうなずいた。



第一巻<9> / TB(-) / CM(-) /

[ <9>−5 ]
2007/08/17(Fri) 09:23:03
「どうすりゃいいんですかね」
「どうすりゃって、そりゃ帝に報告しないと」
「そうなんですけど・・・」
 英司の悩みがどこにあるのか、雅人にはよくわかっていた。
 つい3日ほど前、帝から命が下ったのだ。
『過去に飛んで、俺に黒板消しを投げつけたのが、あの女だと確認してこい』
 英司は、クリスティ分家の出で、風系統の魔力を操るのに長けている。
 『風』は移動、速度などに関係する魔法にすぐれ、時を渡ることも術によっては可能だ。
 彼は早速指示通り、過去に行ってきたに違いない。
 そして結果は、思わしくなかったのだ。
「でも雅人先輩。結果が予想外だったって、よくわかりましたね」
「それはそうでしょ。だって帝相手に、普通あそこまでタンカきる? 何もしてなかったからこそ出来ることだよ」
 ふっと笑みを漏らしながら、雅人はつぶやいた。
「驚いたよね、正直あんなレディだとは思わなかった」
「俺もです。普通、転校しますよ、あれだけやられれば」
「単なるいじっぱり? いいや、それだけじゃないね」
 雅人は、薔薇をいじりながら考える。
「何かあるね、彼女。そうまでして、この学園にいたい理由が」
「え?」
「僕の考えでは、それは愛のためだと思うよ。いたいけな少女が命をかけて、学園に残る。それはもう、『あい』という二文字のためでしかない!」
(・・・どこでどうすればそんな考えが)
 ついていけない英司だったが、自分の置かれた立場を考え、また深いため息を漏らした。



第一巻<9> / TB(-) / CM(-) /

[ <9>−6 ]
2007/08/18(Sat) 09:51:32
「やっぱ、報告するしかないんすかね」
「安心したまえ。いつも身代わりに役立ってくれてる君を、僕が見捨てると思うかい?」
 ぽん、と肩に手を置かれ、意外そうに英司は目を丸くした。
「先輩?」
「帝には、僕が報告しといてあげるよ」
「ええっ、いいんですか?」
「いいとも。もちろん借りは今度返してくれよ」
 怪しく微笑む先輩に、英司はそれでも喜んだ。
 帝に報告して、怒りを爆発させられるより数倍ましだからだ。
(それに俺より雅人先輩の方が、帝をあしらうの、うまいしなあ)
(ふふっ、僕が報告した方がおもしろいしねえ。帝をからかって遊ぶのも、また一興)
 二人はそれぞれの思惑を胸に秘め、じゃあ、と片手を上げて、別れていった。


第一巻<9> / TB(-) / CM(-) /

[ <10>−1 ]
2007/08/18(Sat) 09:54:28
 いつもと変わらぬ平穏な一日が過ぎた。
(今日も、無事に終わったわ)
 茉理は、ほっとしながら、校門をくぐった。
 帰宅する彼女の、長い影がのびる。
 それを、忌々しそうにみやる少年がいた。
「くそっ・・・」
 悔しげに唇をかみ締め、帝は空から少女の姿を追う。
 何故か目から離せないのだ。
 それが更に彼の苛立ちを募らせた。
(なんだってんだ、あの女・・・)




 西の空が、徐々に赤く染まり始める。
 夕日に照らせれた特館の屋根が、うっすら輝いて見えた。
「お疲れ様、み・か・ど」
 屋根の上で手を振る人影に、彼の眉間が一気にしわよった。
 半分無視して、帝は屋根の上に降り立つ。
「空中からのお見送り、ご苦労様」
「貴様・・・一辺、ここから落としてやろうか」
 苛立つ心をぶつけて言ったが、1歳年上の先輩には通じなかった。
「やあね、帝ちゃん、そんなに怒らないでよ」
「その気色悪い言葉遣いはやめろっ!」
 怒鳴って帝は、雅人の胸倉を掴んだ。
 そのまま突き落とそうと、屋根の端まで行くが、雅人は優雅に微笑んだままだ。



第一巻<10> / TB(-) / CM(-) /

[ <10>−2 ]
2007/08/20(Mon) 10:47:08

「君らしくもないね、帝。何むきになってるんだい?」
「・・・・・・」
「感情に走るなんて、君もまだまだお子様だね。ここで僕を突き落として、心のもやもやが収まるのかな?」
「くっ」
 帝は顔を背け、雅人を屋根の端に下ろした。
 そのまま背を向け、生徒会室の窓を開ける。
「帰れ。俺は最高に気分が悪い」
「残念だけど、そういうわけにはいかないよ」
 薔薇の花を差し出しながら、雅人は微笑んだ。
「英司の報告、聞きたくない?」
 帝は何も言わず、生徒会室に入る。
 窓は、そのまま開けたまま---。
(ふーん、やっぱり気になるんだ)
 入って来いってか。
 薔薇を手に、雅人は笑むと、生徒会室に入っていった。




第一巻<10> / TB(-) / CM(-) /

[ <10>−3 ]
2007/08/21(Tue) 11:04:15
「はい。雅人様直伝のローズティー。おいしいよ」
 椅子にふんぞり返って無言の帝に、雅人はティーカップを差し出した。
 じろりと睨まれたが、彼はそんな視線をものともせずに、自分のカップに口をつける。
「あー、美味しい。やっぱり午後のお茶は最高だね」
「さっさと用件を言え!」
「あせるなよ。どうせ君にだって、わかってるはずだろ」
 かちゃっとカップを置き、雅人は真剣な目になった。
「単刀直入に聞くけど、君はあの少女をどう思っているの?」
「うっとおしい!」
「それだけ?」
「目障りだ!」
「それから?」
「・・・わけわからん!」
 帝は叫んだ。
「どうしてだかわからない。でもあいつを見てると、心が苛つく。どうでもいいから、目の前から消えてもらいたい。それだけだ」
「そう」
 雅人は、静かに微笑んだ。
「君をそんな風にかき乱す存在だということだね」
「・・・・・・」
「どうしたの? 認めたくない? 彼女が君にとって、なんらかの特別な存在だということが」
「!?」
 帝の顔が、真っ赤になった。



第一巻<10> / TB(-) / CM(-) /

[ <10>−4 ]
2007/08/22(Wed) 13:30:37
 雅人は探るように、彼を見る。
「帝、君にはわかって