きつねこぶたの創作部屋

きつねこぶたの創作小説ブログです。ただいま<私立クリスティ 学園シリーズ>を連載しています。
[ <26>−16 ]
2008/04/01(Tue) 23:30:53
「……やれやれ、気の強いお姫様だね」
 彼女を見送って、雅人は薔薇の茂みに声をかける。
「もう出来てきてもいいよ、かくれんぼの好きなレディ」
(ええっ!)
 茉理は心臓が止まるほど驚き、そろそろと茂みから出てきた。
「あの、その……」
「僕のことが気になって、こっそり覗き見かい? 君の熱い視線はずっと僕を見つめてくれていたね、嬉しいよ」
「そういうわけじゃなくて!」
 茉理は、顔を真っ赤にさせて怒鳴った。
「わたしは偶然通りかかっただけですっ。立ち聞きしちゃったのは悪いと思ってますけど、そういうんじゃないんですから」
「ふふ……わかっているよ、隠さなくても、君の気持ちは」
 雅人はふわっと微笑むと、少女を引き寄せる。
「ちょっ、何するんですか」
 叫ぶ彼女の唇に、雅人は人差し指を当てた。
「静かに。薔薇たちの機嫌を損ねてしまうよ。せっかく美しく咲いているのに――彼女たちはね、沈黙と静寂を好むんだ。だから声を立てないで」
「……」
 顔を寄せられ、茉理は頬が高揚した。
 こんなに間近に男子と接近したのなんか、初めてだ。





第一巻<26> / TB(-) / CM(-) /

[ <26>−17 ]
2008/04/02(Wed) 08:44:03
 身を堅くし、俯く彼女の髪を、雅人はやさしく撫でた。
「こうしてみると、思ったより君は可愛いね。帝が夢中になるのもわかるな」
「なっ!」
「君は自覚していないんだね。帝の視線は、君だけに注がれている。僕は確信してるんだ。きっと君が、僕たちのプリンセスになると」
「そ……そんな……」
 茉理は声を震わせた。
 いつもは思いっきり叫んで暴れるところなのだが、薔薇咲き誇る庭園で、貴公子のような少年の腕に引き寄せられていると、そんなお転婆ぶりも、発揮出来なくなってしまう。
 頬を染め、戸惑う茉理の顎に、雅人はそっと指をかけた。
 顔を上向かせ、瞳をあわせる。
(な……なんなの、この展開は!)
 茉理の心臓が、ばくばくと暴れて止まらない。
 キスするかのように、雅人は彼女に顔を近づけた。
(や……やだーっ!)
 次の瞬間。
 茉理は感情が爆発し、雅人を突き飛ばしていた。
「いたたた……なかなかガードの固いお嬢さんだね」
「か、からかわないでくださいっ」
 甘いムードから逃れると、茉理の中で怒りが燃え上がった。
 恥ずかしさと、弄ばれてた事実が、彼女をいらだたせる。





第一巻<26> / TB(-) / CM(-) /

[ <26>−18 ]
2008/04/04(Fri) 04:35:38
「本気じゃないくせに、そんなことしないでください」
「そんなことって?」
 しれっと言われ、茉理は必死に次の言葉を探す。
 びしっと人差し指で彼を指差し、彼女は叫んだ。
「大体副会長、ちゃんと付き合ってる人がいるじゃないですか。悲しみますよ、山下先輩が」
「……」
 雅人は一瞬、無言になったが、弾けたように笑い出した。
「あ……英司のことね、ははははっ」
「笑い事じゃないでしょ! ちゃんと好きなら、浮気しないで、山下先輩を大事にしてあげてください」
 真剣な茉理に、雅人は笑いが止まらなかった。
「な……何が可笑しいんですか!」
「いや……くくく……ごめんごめん」
(そんなにお腹をかかえて笑わなくたって!)
 茉理は憮然とした。
 雅人は笑いながら、彼女を見る。
「ますます面白いレディだね。惜しいなあ、帝のものになるんじゃなかったら、僕が君をつかまえるのに」
「は?」
「嫌かい? ふふ……でもこれは、本気だよ」
「なっ」
 茉理の顔が、また真っ赤になった。
 


第一巻<26> / TB(-) / CM(-) /

[ <26>−19 ]
2008/04/04(Fri) 04:40:23
 雅人は残念そうにつぶやく。
「帝には渡したくないっていうのは、本当さ。でも彼も、僕にとっては大事な存在なんだよ――この僕自身よりも。だから君を譲ることも出来るのさ」
 茉理は、突然の真摯な言葉に、声も出なかった。
「と、とにかく」
 ばつが悪くなって、茉理はなんとか言葉をつむぐ。
「覗き見しちゃって、どうもすみませんでした! あの、ここでのことは、ちゃんと山下先輩には、内緒にしときますから」
 勢いよく言って頭を下げると、雅人は笑いをかみ殺しながら答える。
「英司に? 僕が他のレディと密会してたって?」
「……」
「それとも君に想いを伝えたこと? だったらむしろ言って欲しいくらいだよ」
「え?」
「だって彼はね、最近僕に冷たいんだ。だから少しは妬いてくれないと面白くない、だろ?」
 ばっちりウインクを決められて、茉理は更に怒りが沸騰した。
(会長といい、副会長といい、人の心をなんだと思ってるのよ)
 弄ぶようなその態度が、むかついてしょうがない。
 これ以上会話したくはなくて、茉理は勢いよく一礼すると、庭園を走り去った。



第一巻<26> / TB(-) / CM(-) /

[ <27>−1 ]
2008/04/05(Sat) 10:13:05
 雅人との庭園騒ぎから、2日たった。
 彼とあの時会っていたのが、もう一人の彼女候補――早川 響子であると、茉理は知った。
 情報源は、奈々だ。
『ねえねえ、ついに3人目の候補者がエントリーされたんだって』
『そう』
『もう! なにそんな気のない声、出してんのよ。ま、そうよね、茉理に勝ち目はないものね。ほんと、帝様も生徒会の皆様も、何を考えてるのかしら』
『……』
『3人目は、早川 響子。1年E組。ほら、斎様と同じクラスよ』
『ふーん』
『彼女は初等部から有名な人なのよ。名門グランスノア家とレティア家の血を引く、もう魔術の大天才! おまけに美人で清楚で、お姫様みたいな感じだし――残念だけど、茉理には、ちょっとレベルが高すぎね』
(別にそんなのどうでもいいけど)
 茉理は、ひじをつきながら、ため息をついた。
 そんな彼女をどう思ったのか、奈々はがしっと机に乗り出してくる。
『でも茉理! わたしたちは親友よ。あなたが例え帝様の彼女に選ばれなくても――っていうか、結果はみえてるけど、最後までがんばって。わたし、応援してるからね』
 応援なんてしなくていいんだけど、と心の中で茉理は思い、はああっとまたため息を漏らした。




第一巻<27> / TB(-) / CM(-) /

[ <27>−2 ]
2008/04/06(Sun) 10:13:12
 5月31日に、イベントは開始されるらしい。
 一体それがなんなのか、茉理は興味もないので、ほうっておいた。
 実際、その日に参加する気はゼロ。
 それどころか学校に来る気すらない。
(わたしってお兄ちゃんがいるから、この学校に留まってるだけなんだもん。そんな生徒会長の彼女になんて、死んだってごめんだわ)
 そう堅く決意してはいるのだが――。
 茉理は、そっと鞄に触れた。
 あの本が入っている。
 あれを読んだ時以来、茉理は夢を見るようになった。
 夢の中身は、決まってお話の一部。
 素敵な騎士の誓いを受けているシーンだったり、はたまた悲惨な光景だったりした。
(でも、なんだって騎士役が、生徒会長に似てるわけ?)
 昨夜の夢では、黒いローブを纏った少女に跪いているのは、どことなく帝にそっくりな青年だった。
(ま、わたしの潜在意識が作り出したものなわけだから、わたしの意識の中にいる人が、夢に出てきててもおかしくないんだけどね)
 深い意味はないんだろうが――不快であることは確かだった。
(せっかく乙女の妄想を掻きたてるような素敵な場面に、どうしてあの人が割り込んでくるわけ!?)
 ただでさえ学校で顔をあわせるのも嫌だというのに、夢にまで出てこられたらたまらない。
 そんなこんなで、彼女は今、憂鬱だった。
(今晩も、あの夢を見るのかしら)
 そう思うと、もうため息しか出ない。
(あーあ、生徒会長の大ばか者。今夜も出てきてごらんなさい。図書室にあった、【世界に伝わる呪い大全集】借りてきて、出来そうなので呪いを送ってやるわ)
 物騒なことを考えながら、茉理はこぶしを握り締めた。



第一巻<27> / TB(-) / CM(-) /

[ <27>−3 ]
2008/04/07(Mon) 08:34:58
「――以上でおおまかなプランはたったな」
 直樹の冷静な声が、放課後の生徒会室に響いた。
 例の円卓に集うのは、いつもの面々――いや。
 中央の椅子は、空席だった。
「僕は賛成」
「俺もいいっすよ」
 二人の賛同を受け、直樹は斎に聞く。
「お前も、この案には賛成してくれるだろ? 参加できるかはともかくとして」
 斎は白い表情のまま、うなずいた。
「お前は万が一のことがある。魔力を使うことは極力さけて、後方で待機しててくれ。そのかわり」
 黒眼鏡がきらっと光る。
「今年は、帝本人にワンステージをまかせようと思う。本人も了解済みだ」
「帝が?」
 英司は、やや意外そうな声をあげた。
「去年は俺たちの組んだ障害コースをクリアする候補者たちを見ているだけだったが、最終決断を彼にまかせた方が理にかなっている。これは帝自身が言い出したことでね」
「去年は、全部高みの見物決め込んでいた王様が動くなんて、ますます今年は期待できそうだね」
 面白そうに言う雅人に、直樹は顔をしかめる。
「その分、俺たちも気合を入れていかないとな。各自、自分の持ち場で全力をつくしてくれ」
「わかりました」
 英司はうなずき、立ち上がった。




第一巻<27> / TB(-) / CM(-) /

[ <27>−4 ]
2008/04/08(Tue) 16:05:40
「おや、英司君、どこ行くの?」
 のほほんと聞く雅人に、英司はこぶしを握って突き出す。
「どこ行く、ですって! 先輩のかわりに、3年A組 白川 恵子先輩のお誘いを、断りにいくんじゃないですかっ。まったくもう」
「あー、そうだったっけ」
「少しは後輩を労わってくださいよ、雅人先輩。体育館の裏で、放課後待ってるよ、なんて返事をするから、俺が苦労するんじゃないですか。自分の体が非常時なの、ほんとにわかってます?」
「そう怒るなよ、英司君。君はほんとに可愛いね」
 雅人はにこやかに笑むと、立ち上がり、彼の背後にまわった。
 すっと英司が動きを変える。
「いつもいつも! もう後ろは取らせませんよ」
「おおっ、さすが英司君。少しは成長したみたいだね。お兄ちゃんは嬉しいよ」
 さらりとかわす雅人を、睨み殺しそうな視線で見つめながら、英司は低い声でつぶやいた。
「人の気も知らないで――いいですか。これ以上面倒な事を引き受けないでください。イベントまでに、俺だって体調と魔力は整えておかないといけないんです。余計な魔力の浪費は、俺もごめんです。わかりましたね」



第一巻<27> / TB(-) / CM(-) /

[ <27>−5 ]
2008/04/09(Wed) 11:17:39
「わかったよ、ごめん」
 あっさりあやまられ、英司ははああっとため息をついた。
「俺、本気で言ってるんですけど」
「僕も本気だよ」
「そうは見えないんですけどね」
「心外だなあ。英司君、僕ってそんなに信用出来ない?」
「はい」
 きっぱりと肯定され、今度は雅人が無言になった。
「二人ともそのくらいにしておけ」
 直樹が、割って入る。
「英司、さっさと片付けてこい。こいつには、俺からよく言ってきかせるから」
 まだ言い足りなさそうな英司だったが、もう一人の信頼出来そうな先輩には逆らえず、踵を返して、生徒会室を出て行った。
「サンキュー、心の友、直樹君」
「別にお前をけりつきそうもない言い争いから、救ったわけではないからな」
 直樹は冷たい口調で言った。
「ただ、今回は俺にも一応責任があるからな」
「おっ、めずらしく自覚してるじゃない?」
 ふふっと薔薇を弄びながら、雅人は笑う。
「お前も、さっさと体をなんとかしろ」
「なんとかと言われてもねえ」
 ふうっと憂鬱そうに、雅人は息を吐いた。




第一巻<27> / TB(-) / CM(-) /

[ <27>−6 ]
2008/04/10(Thu) 09:43:20
「そういえば、あの子にあったよ」
 彼の口調が少し変わったので、直樹はPCを打つ手を止めた。
「早川 響子嬢。一筋縄じゃいかないね」
「……」
「彼女、茉理姫に、個人的な感情を抱いているようだ。再三の規則違反を犯してまでも、彼女にちょっかいを出すのはやめられない――そうだろ? 斎」
 急に振られて、斎は少々驚く。
『雅人先輩、気付いていたのか』
 誰にも気付かれないように、最新の注意を払って、仕掛けられる嫌がらせの数々。
 自分だって同じクラスにいるのに、あの『死んだごきぶり』が出なかったら、わからなかった。
 直樹は、少し間を置いて言った。
「お前は知ってるよな。あの小娘が、よく初等部のとき、俺とつるんでたのを」
 自分が推薦した少女のことを吐き捨てるように言った直樹に、またまた斎は驚く。
『直樹先輩とつるんでた?』
「まあね。この僕を差し置いて、君にだけ興味を示すなんて、あの子も男を見る目がなってないよね」
「いや、むしろそれに関しては、見る目があると思うんだがな」
 直樹は冷たく言い放つと、話を横にそらすな、とつぶやいた。




第一巻<27> / TB(-) / CM(-) /

[ <27>−7 ]
2008/04/10(Thu) 09:44:59
「はいはい、で?」
「彼女は、別に俺を気に入って、側にひっついてたわけじゃない。目的があったんだ」
「ふーん、めずらしく君がしてやられたわけか」
「ああ。まあこっちにも気付かなかったというまぬけな点があるから、彼女ばかりを責めるわけにはいかないが」
 直樹は、めずらしくため息を漏らす。
「で? 彼女を帝の候補に押し上げた理由が、そこにあるわけ?」
「別に帝の彼女になんて、俺ははなから考えていなかった。むしろ願い下げだ。あんな女、帝の足元にも近寄らせたくはない」
『じゃ、どうして推薦なんて……』
 心の中で、斎は思った。
「チャンスだと思ったんだ。後野 茉理に彼女を近づける良い機会だと」
「は? 後野 茉理と彼女を接触させたかったわけ?」
 やや間の抜けた声で、雅人は聞き返す。
 斎も首をかしげた。
『別にイベントに推薦しなくたって――』
 いくらでも、早川 響子と後野 茉理を接触させる手はあるはず。




第一巻<27> / TB(-) / CM(-) /

[ <27>−8 ]
2008/04/10(Thu) 09:45:56
「生半可な接触じゃ駄目だ。二人が対立するように、わざと仕向けたかった。もしかしたらそうすることで、俺の過ちが修正出来るかもしれないと考えた。むしの良すぎる話だがな」
 辛そうに告白する直樹を、雅人はいつになくやさしい瞳で見た。
「君は、そのことでずっと自分を責めていたんだね。まったく直樹君、君の律儀さには敬服するよ」
 そっと微笑むと、雅人は親友に歩み寄り、ぽん、と肩を叩く。
「心配しなくても大丈夫。きっとうまく行くさ」
 その温かみのある言葉が、直樹の心に染み渡り、癒しているのを斎は感じた。
『雅人先輩って、普段は人のことをからかってばかりなんだけどな』
 そういう人が、突然真剣に言う言葉には、重みがある。
 斎は目を閉じ、二人が互いに信頼しあってる空気を感じた。
 自分の心にも何か暖かいものが広がっていく。
 それは俗にいう仲間意識、とか、同士とか、そういう心のつながりに共通して流れる、心地よい感情。
『直樹先輩の犯した過ちって何だろうか。僕にも何か力になれないだろうか』
 斎は、胸の奥でそう思った。




第一巻<27> / TB(-) / CM(-) /

[ <27>−9 ]
2008/04/10(Thu) 09:47:20
(ここだな……お、いるいる)
 雅人に変身した英司は、体育館の裏に来ていた。
 制服の胸リボンを必死に整え、髪を撫で付けながら、そわそわしている美少女がいた。
(まったくもう! 俺はこういうシチュエーションは、苦手なんだってのに)
 一体どうやって断ればいいんだ――それも雅人らしく。
 英司は頭がパニックになりかけたが、早く済ませてしまおうと、彼女に近づいた。
 案の定、白川 恵子は頬を染め、彼の前でもじもじする。
「あ……あの、雅人様、わたし、わたし……」
(ええい、まだるっこしい!)
 英司は、機嫌の悪さも手伝って、手に持つ薔薇をぐしゃあっと握りつぶした。
「あの、その、もし良かったら、わたしと……今度の日曜日……」
 彼女は顔を真っ赤にしながら、言葉を続ける。
「わたし、前からあなたのこと……雅人様……」
 恋する女の子に特有のはじらいモードで、彼女は俯き、両手を握り締め、雅人の返事を待った。




第一巻<27> / TB(-) / CM(-) /

[ <27>−10 ]
2008/04/14(Mon) 15:20:01
(えーと、雅人先輩らしくだと……)
 英司は、必死に台詞を考える。
 思いつくのは、口にするのもおぞましいものばかりだったが、しょうがない。
 早く済ませてしまおうと、彼は頭をからっぽにし、自分を捨てた。
「か、可愛いレディ。き、君の気持ちは、とっても嬉しいよ。その、僕は、き、君のようなレディに思われて、光栄だよ」
「ま、雅人様、嬉しい」
 白川 恵子は、目を潤ませて、彼を見つめる。
 その視線に一瞬ひるんだ英司だが、ここでお誘いを受けるわけにはいかない。
 断ろうと口を開きかけたそのとき――。
 バシャアアアーッ。
 勢いよく、背後から水が降ってきた。
 水は雅人姿の英司を直撃し、彼は思いっきりずぶぬれになる。
「な……」
 驚きで振り向くと、今度はプラスチックのバケツが飛んできた。
「うわっ!」
 あわてて受け止めた英司は、目を点にする。
 そこには、怒り沸騰して仁王立ちになる茉理の姿があった。





第一巻<27> / TB(-) / CM(-) /

[ <27>−11 ]
2008/04/14(Mon) 15:27:07
「きゃああっ、雅人様っ、大丈夫ですか」
 白川 恵子の奇声が、体育館の裏に響いた。
「ちょっと、あなたは何よ! わたしの雅人様になんてことを」
 せっかくの告白場面を台無しにされ、恵子は怒って、茉理につかみかかる。
 でも茉理は、それ以上に興奮し、腹を立てていた。
「副会長! またこんなとこで、女の子をたぶらかすなんて」
「え……あの、おい」
 雅人姿の英司は、あまりの勢いに言葉を失ってしまう。
「一人でふらふら、人目を避けてどこ行くのかと思ったら、またこんなことをして。人の気持ちを弄ぶのはやめてくださいって言ったでしょ」
 思いっきり叫ぶと、彼女は恵子に向き直った。
「騙されちゃ駄目ですよ。こいつは外見だけしかいいとこない、超変態ホモ男なんですから」
「え?」
「副会長には、ちゃんと付き合ってる人がいるんです。本命が! それなのに二股かけようとするなんて、最悪だわ」



第一巻<27> / TB(-) / CM(-) /

[ <27>−12 ]
2008/04/15(Tue) 14:11:23
「ふ……二股? 雅人様に本命が……そんな……」
 恵子は、衝撃でへなへなと崩れ落ちる。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ。俺に本命?」
 思わず口調を本来の自分に戻してしまったが、雅人姿の英司はなんとか釈明しようと試みた。
(ていうか、一体どういう展開になってんですかっ。 雅人先輩っ)
 英司は心の中で、雅人に思いっきり悪態をつく。
「そうですよ。昼間っから堂々といちゃいちゃしてるくせに、他の女の子を誘惑するなんて、最低! この節操なしっ」
(雅人先輩、一体どこの誰に、そんな行為を……)
 英司は絶句しながら、自分の立場を呪った。
 この場の収集を、もうどうつけてよいかわからない。
 茉理は手を腰に当て、雅人姿の英司をはったと睨んで叫んだ。
「ちゃんと本命の山下先輩を大事にしてあげないと、かわいそうじゃないですか。山下先輩だって悲しみますよ。相手のことは浮気してないか、ちゃんと監視に来るくせに、自分は見境なしなんて最悪だわ」
「なっ!」
 今度こそ、本当に英司は頭が昇天した。



第一巻<27> / TB(-) / CM(-) /

[ <27>−13 ]
2008/04/16(Wed) 11:59:07
「うっ、嘘……雅人様が、英司君と……?」
「ち、違うっ! それは誤解だ、誤解っ!」
 あわてて英司は取り繕うが、もう恵子の目は、先ほどの恋する乙女ではなかった。
 そう、まるでそれは見てはいけないものを、見てしまったような――。
「そうだったのねっ、雅人様って、そういう趣味がおありだったのね! そんなこと知らずにわたし……わたしは……バカアアアッ」
「あーっ、おい、ちょっと」
 最後は絶望に涙しながら、白川 恵子は走り去っていく。
 呆然と後姿を見送る英司に、茉理は追い討ちをかけた。
「これにこりたら、もう二股なんて、馬鹿なまねはやめてください。いいですね、副会長」
 そして彼女も、体育館の裏から立ち去っていく。
 あとには、どうしてよいかわからなくなった英司だけが取り残された。




第一巻<27> / TB(-) / CM(-) /

[ <28>−1 ]
2008/04/17(Thu) 11:00:58
「なんだ、これは!」
 大きく『号外』と見出しをつけられた校内新聞を、ビリリッと帝は引き裂いた。
「み……帝、落ち着いてくれよ」
 本気で困った顔の雅人が、彼をなだめに入る。
 さすがの彼も、今日は憂鬱そうだ。
「何が悲しくて、クリスティ筆頭のお前と英司が、くだらん週刊誌のスキャンダル扱い記事を書かれねばならんのだ。お前の日ごろの行いが悪いから、こういうことになるんだぞ」
「今回は僕も、ほんとに反省してるよ、参ったね、こうなるなんて」
 ふうっと息消沈しつつ、雅人は円卓に突っ伏した。
 いつもの甘いセリフや悲劇に酔いしれた言葉は、まったくない。
「まあ、出たものはしょうがないだろう。帝、少しは冷静になれ」
 直樹の言葉が、沈静剤のように、帝の心を静めていく。
 不機嫌そうに彼は新聞を足で踏みにじると、どかっと椅子に腰掛けた。
 斎はため息をつき、手に持つ新聞を改めて見る。
『禁断の恋! 麗しき魔族の貴公子二人が許されざる関係に!』
 見出しには、でかでかと飾り文字と真っ赤な色で、そう書かれていた。
「二人は共に幼馴染。一体いつ友情が恋愛感情に変わったのかはわからないが、校内で二人が想いを交し合っているのを発見した目撃者も多数――おいおい、この写真なんて、去年の体育祭で、英司がリレーのアンカーで1位になって、お前が喜びで抱きついてるのじゃないか」
 横から直樹が、新聞記事を読み上げ、あきれて声をあげる。
「それは素直に、喜びを表現しただけだっ」
「一度色眼鏡をかけてみられたら、なんでもそうなるだろうよ。これにこりて少しは慎め」
「直樹君、君の心には同情の文字はないのかい?」
「悪いが俺は忠告したはずだぞ、この前。それを無視して、このざまだ。同情の余地がどこにある」
「きっついなあ、事実だから何も言えないけど」
 しゅんと沈み込んでしまった彼を、やれやれと直樹は見た。




第一巻<28> / TB(-) / CM(-) /

[ <28>−2 ]
2008/04/18(Fri) 10:19:08
「英司はどうしてる?」
 低い声で、帝が聞いた。
「あまりのショックで、家に篭ってるよ。ま、良い判断だ」
 直樹はにやりと笑った。
「今日、学校になんて出てきてみろ。どんな目で見られるか、わかったもんじゃないからな。あいつは雅人と違って、そういうスキャンダラスなことの対処に弱いから、きっとどうにも出来なくて、おたおたしたあげく、空に逃避行するのでせいいっぱいだろう」
「ああっ、なんてことだ! 僕はもう永久に、彼に口を聞いてもらえそうもないよ。昨日、怒りに怒って体育館裏から戻ってきて、僕の胸倉をつかんで、本気でなぐってきたんだ。いやあ、彼があんなに怒ったら怖い奴だったなんて、思いもしなかったな」
「刺されなかっただけ、ましと思え。一応事情は聞いたけど――ほとんど雅人、お前の軽率な行動が巻いた種だった。参考までに聞きたいが、お前は後野 茉理に何を言ったんだ? あんなに誤解されるほど、すごいことをしたのか」
「いや……ただ単に、彼女が超生真面目で、融通が利かない思考の持ち主だっただけで、別に……ああああっ、そんなこと、今更気付いてどうする!」
 はあああっ。
 雅人は、直樹の言葉を受け、とどめを刺された男のように、円卓にどさっとうつ伏せになった。



第一巻<28> / TB(-) / CM(-) /

[ <28>−3 ]
2008/04/19(Sat) 12:12:48
 顔をあげもしない雅人を、斎は胸痛く見つめる。
 そこにいるのは、普段の麗しく誇り高い雅人ではなくて、完全な抜け殻だ。
 横で見ているこっちが、みじめに思えてくる。
 斎はしばらく逡巡したが、やがてその辺に置いてあったプリントをひっくり返して、鉛筆で書いた。
[今日、僕が英司先輩の所に行ってみます]
 プリントを差し出され、雅人は読むと、顔を輝かせた。
「斎〜、嬉しいよ〜、ああっ、こんな身近に僕の味方がいるなんて。天はまだ僕を見放していないというわけだね」
 斎は微笑むと、更に書き足す。
[後野さんにも、僕が説明してみます。先輩と英司先輩のことは、誤解だって]
「本当かい? サンキュー、斎君」
 ハートマークを散らす勢いで、雅人は斎に飛びかかり、抱きついた。
 直樹が、顔をしかめる。
「おいおい、自粛しろと言ったはずだぞ、雅人。言ってるそばからこれだ」
「なんだよ、喜びをスキンシップで表現して何が悪い」
 かしっと斎を抱きしめながら、雅人は反論した。
「そして今度は新聞に、【愛のもつれのさんかく関係! 雅人様の本命は誰?】とか書かれるわけか。まったく付き合いきれないな」
 直樹の言葉に、雅人は名残惜しげに斎を離す。



第一巻<28> / TB(-) / CM(-) /

[ <28>−4 ]
2008/04/20(Sun) 09:38:02
「雅人、お前はしばらく教室と生徒会室以外は、立ち入り禁止だ。その辺をうろうろして、揉め事を増やすな」
「えーっ、トイレはどうすんのさ、帝」
 口を尖らせ、叫ぶ雅人を、帝はぎろりと睨んだ。
「今まで以上に、休み時間の他人との行動は慎め。必ず別な生徒の姿で行くこと」
「わかったよ」
 雅人は、にっこりうなずいた。
「まだ昼休みは終わってないから、これから俺が昼の特別放送を流し、二人は白だと釈明しておく。もう二度とこんな馬鹿なうわさを流されるようなことはするな!」
 そう言うと、帝は席を立った。
 斎の前で立ち止まると、ふっと表情を緩める。
「あいつを――英司を頼むぞ」
 斎は静かに微笑んで、うなずいた。



第一巻<28> / TB(-) / CM(-) /