きつねこぶたの創作部屋

きつねこぶたの創作小説ブログです。ただいま<私立クリスティ 学園シリーズ>を連載しています。
[ <28>−15 ]
2008/05/01(Thu) 17:37:24
「ま、今回の件はしゃーないな。帝あたりが俺に同情して、なんとか校内を押さえてくれるだろうし、うわさなんて無責任なものに、いちいち関わってるほどみんな暇じゃないだろうし。深く気にしなくてもいいってことかな」
 英司はそう言うと、またよいしょっと起き上がった。
「でもさ、やっぱ俺にも男としてのプライドっつうか何つうか――とにかく雅人先輩、なぐりでもしなかったら、格好がつかないというか何というかでさ、そうあっさりと、仲直りってわけにもいかないよな、ここまできたら」
『……そうですね』
「ま、当分口聞いてやらないかも。意地はっててもしかたないから、適当なところで、終わらせるけどね」
 心配するな、と片目をつぶる英司に、斎は胸をなでおろした。
(良かった。僕が心配する必要なんてなかったな)




第一巻<28> / TB(-) / CM(-) /

[ <28>−16 ]
2008/05/02(Fri) 09:42:23
「それより問題は、あっちだよ、あっち」
 口調の変わった英司に、斎は首をかしげる。
「俺より後野さんの方が、誤解を解くの、大変そうじゃん? 思ったより生真面目で、純粋でさ。雅人先輩のこと、『変態ホモ我侭ナルシスト』だと思いこんでるしなあ。思われるのはしょうがなくても、また水、ぶっかけられるのはごめんだよな」
『彼女には、僕が説明してみます』
「そうだな、そうしてくれると助かるよ」
 英司は嬉しそうに言った。
「俺たちじゃ、あんまり信じてもらえないかもしれないしな。彼女のこと、まかせていいか?」
『はい』
「実は、雅人先輩からさ、何気に彼女に気をつけとくように言われてたんだよね。何かあったらすぐに報告するようにって」
『え? 後野さんをですか』
 驚く斎に、英司は続けた。
「俺もよくわからないんだけど、後野さんってやっぱり何かいわく付きらしい。直樹先輩や雅人先輩がやたら絡むのは、そのせいさ」
『そうだったんですか』
「なんかやばそうな感じなんだよね。お前も気をつけろよ。何しろ俺たちクリスティの運命に関わりがあるみたいだから」
 その言葉に、斎は内心驚きながらも、深くうなずいた。





第一巻<28> / TB(-) / CM(-) /

[ <29>−1 ]
2008/05/03(Sat) 10:11:49
 うわさは広まりはしたが、すぐに誤解ということで収まった。
 生徒会長の校内放送は強力だったし、雅人もあれから自粛しているのか、女の子と一緒にいるところをみかけることはなかった。
(この行動は、当然といえば当然であった。何しろ今の彼は、女生徒に接して、悲鳴を上げさせるわけにはいかない身だったからである)
 英司は3日間、家で監禁状態にあったが、帝が理事会に出頭し、責任者としてきちんと指導出来なかったと謝罪し、彼の『今後二度とこういう不肖なうわさは、流さないことを厳重に注意します』との確約の末、英司は自由の身となった。
 収まらないのは、茉理だ。
(こんなことで終わっちゃうなんて!)
 本当はもっとこの機会に、よく反省してもらいたい、そう彼女は考えていた。
 しかしあっさりうわさは消え、雅人はまた元のように元気に登校している。
 クラスメイトはただのデマだと憤慨し、雅人と英司に対して同情の声もあがる始末。
(みんな、あんないい加減男のどこがいいのかしら)
 つくづく理解が出来ない茉理であった。



第一巻<29> / TB(-) / CM(-) /

[ <29>−2 ]
2008/05/03(Sat) 10:13:42
「さすがに少しは慎んでるみたいだな、雅人」
 昼休みの生徒会室で、直樹は束になったプリントを整理していた。
「まあね、でも一件落着というわけには――ああっ、どうしたらいいんだ。僕の可愛い英司君ときたら、この僕とは口も利いてくれないんだよ」
「そのぐらいはしょうがないだろ。うわさが収まったことで、とりあえず満足してろ」
「あいかわらず冷たいなあ、直樹君。少しは」
「同情と慰めの言葉を、俺に期待する方が、馬鹿だって、お前が一番よく知ってると思ったが」
 冷たく黒眼鏡が光る。
 雅人は、はあああっ、と大仰にため息をつくと、また円卓に陥没した。
「あー、この机って冷たくて、気持ちがいいなあ。ちょうど今の僕には、この冷たさが心地よく感じるよ」
「後野 茉理はどうした。ちゃんと釈明しといたんだろうな」
「うーん」
 雅人は唸り、卓から顔をあげようとしない。
(ま、むずかしいだろうな。普通の少女に、こいつを理解しろってのは不可能だろう)
 直樹は聞く必要もない話題を振ってしまったと首を振り、プリントの仕分けに集中した。



第一巻<29> / TB(-) / CM(-) /

[ <29>−3 ]
2008/05/03(Sat) 10:19:08
(さあって、もうすぐ5時間目だわ)
 茉理は軽く伸びをし、首を前後にふった。
 中学生なんだけど、肩が重く感じる今日この頃である。
『後野さん?』
 頭に響いてきた声に、茉理は瞬時に反応した。
『あ……遠野君?』
『あのさ、もしかして、今日、放課後、開いてる?』
『え?』
 茉理は、思わず聞き返した。
『忙しいならいいんだけど、もし良かったら、どこか遊びにでもいかないかと思って』
「え……ええええーっ!」
 大声をあげて、茉理は立ち上がってしまい、教室にいたクラスメイトたちの注目をあびてしまう。
『あの、別にいいけど、突然どうしたの?』
『いや、その……ちょっと後野さんと話したいかなって』
 声は、とても一生懸命だ。
 茉理は、またきちんと椅子に座り、うーんと考え込む。
(これってデートのお誘いじゃないわよね。うん、まさか、あの遠野君が)
 きっとこないだの一件だろう。
『いいよ。じゃ、授業終わったら、駅で待ってる。学校内だと目立つでしょ』
 ただでさえ自分は奇妙な目で見られているというのに、これ以上余計な目線を増やしたくなかったのだ。
『ううん、家に帰って、着替えてからの方がいいな』
『そ……そう?』
 茉理は戸惑いながら、わかった、じゃ、あとで、と返事を返し、5時間目に使う教科書の準備をした。



第一巻<29> / TB(-) / CM(-) /

[ <29>−4 ]
2008/05/06(Tue) 14:38:38
 放課後になった。
「斎はどうした?」
 生徒会室に集まった面々を見て、帝が声をかける。
「ああ、彼ならデート中だよ」
「でーとだと?」
 声色を変えた帝に気付き、雅人は面白そうに付け加えた。
「そうそう、後野 茉理姫と。いやー、斎もけっこうやるね」
 がたっ。
 帝は席を立つと、雅人につかつかと歩み寄り、胸倉をつかみあげた。
「俺にケンカを売ってるのか? ええ?」
「わっ、ちょっとタンマ! 暴力反対!」
 あわてて雅人は、帝の手を自分から離す。
「落ち着け、帝」
 直樹が、横から沈静した。
「別にお前の彼女候補を、斎はどうこうしたりしないさ。雅人と英司の件を、きちんと釈明しに行っただけのこと。ま、そいつを殴りたければ、俺は止めないけどね」
 ほとんど諸悪の根源はこいつだし、と冷たく付け加えられ、雅人は肩をすくめる。
「ひどいなあ、直樹君。親友の僕を、見捨てる気かい?」
「俺の親友になりたいなら、もう少し言葉を慎め。今のはお前が悪い。わざと帝を挑発したろ。帝、お前もこんな奴の挑発に乗るな。もう少し冷静になれ」
 唯一このメンバーの中でまともそうな彼の発言に、二人は納まり、とりあえずまた席に着いた。
 帝は腕を組み、勤めてクールさを装っているものの、内心いらついてるのが、こめかみの動きでわかる。
(やれやれ。また後野 茉理か)
 直樹は、こそっと胸のうちでつぶやいた。
(やはり雅人じゃないけど、帝はそうとう彼女を意識してるようだな。円城寺や早川が、もし男と会っていると報告されたとしても、これほどまでには熱くならんだろう)
 そしてもし、帝の運命の相手が彼女なら。
(おそらく動き出すな)
 直樹はPCを叩きながら、一人静かに闘志を燃やしていた。




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[ <29>−5 ]
2008/05/07(Wed) 09:36:42
 茉理は連れて来られた場所を見て、目を丸くした。
 学校が終わって着替えてから、三時過ぎにこんな遠くまで――XXランドまで行くことになるとは思わなかった。
(そうよね。遠野君だって、普段は電車で通学してるみたいだけど、クリスティ一族だったわ)
 彼の親しみやすい外見に、すっかり忘れていたのだが――。


 着替えて、家のすぐ近くの交差点で待っていると、それなりに目立つ黒塗り高級車が颯爽と現れた。
(ちょっと待って! わたし、こんな格好で……)
 茉理は、一瞬身をひいてしまう。
 少し暑くなってきたので、彼女はTシャツにジーンズ、薄めの白いジャケットを羽織った、いわゆるシンプル庶民ファッション。
 足はシューズで、別におしゃれでもなんでもない、スーバーのセールで買った普通のだ。
(わ、ワンピでも、着てくればよかったのかしら)
 一瞬デートかと思った自分に笑いがこみあげ、どうせその辺の公園で、ジュース片手にベンチでおしゃべりだと、こういう格好をしてきたのだが。
『どうぞ、後野さん』
 すっと斎が車から降りてきて、後頭部座席のドアを開けてくれる。
(うっ、なんかすごく気まずいんですけど)
 茉理は顔を赤らめながら、座席に座った。
 かけ心地満点のシートには、滑らかなシルクのカバーがかかっている。
 斎は、白と青のストライプのシャツと黒のスラックスで、足元は黒革っぽい靴で決めていた。
 さりげなく首にプラチナのチェーンが見えており、それがきらきら光ってなんともおしゃれだ。
(えーん、中一に見えないよ、この人も)
 相変わらず白くて生気のない顔をしていたが、今日はそれすらも引き立ってみえる。
 茉理は、あまりにもそぐわない自分の容姿と比べて、この場から逃げ出したくなった。
(きっとこういうかっこいい男の子には、可愛いお嬢様タイプが横にいるといいのよね)



第一巻<29> / TB(-) / CM(-) /

[ <29>−6 ]
2008/05/08(Thu) 12:11:08
 はああっと思いっきりため息をついた茉理を、斎はけげんそうに見た。
『どうしたの?』
『えーと……あはは、ちょっと慣れない車だから緊張しちゃって』
 車に原因をなすりつけ、茉理は笑う。
「お嬢様、どちらに」
 実直そうな運転手に聞かれ、茉理は一瞬、へっ、と思った。
(お、お嬢様って、わたしのことなの?)
 何も答えられないでいる茉理に、斎はくすっと笑った。
『僕の我がままで誘っちゃったからね。後野さんの行きたい所に、連れていってあげるよ』
『え? そ、そんなあ』
『遠慮しなくてもいいって――あ、でも日帰り出来る所にしてね』
 さらりと言われ、茉理はますます困惑する。
(スケールが違いすぎるよーっ)
 頭を抱えて悩んでいる茉理に、斎は考え込んだ。
『じゃ、もし良かったら、どんなところがいいか、教えてくれない? こっちで考えてみるから』
『どんな所って言われても――楽しくて、面白くて、えーと景色なんかも綺麗で……あ、でも話をするのなら、静かな所もあったほうがいいかなあ』
『うん、わかった』
 斎はそれだけ聞いて、二つ返事で答え、運転手にメモを書いて渡す。
(わかったって、結局どこになったんだろ)
 走り出した車の中で、茉理は胸がどきどきしていた。



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[ <29>−7 ]
2008/05/09(Fri) 12:00:11
『遠野さん、チケット買ったよ』
「え……あ、うん」
 XXランドの大きな門を見上げ、呆然としていた茉理は、声をかけられ、振り向いた。
 渡されたチケットを見て、それが『一日フリーパス』だとわかり、更にぐえっとかえるのような悲鳴をあげる。
(けっこうするよ、このチケット)
 自分たちの住んでる市の隣にある海に面したアトラクションとテーマパークの集合体。
 まだ出来て10年にもならないが、最先端の乗り物の数は豊富で、植物園や小動物園、海に面したホテルに、水上レジャー施設など――とにかく豪華で人気のある場所なのだ。
 自分の一月分のおこずかいをはたいても買えないチケットを握り締め、めまいがしそうになる頭を抱えて、茉理は斎と門をくぐった。



『ごめん。もしかして、ここ、嫌いだった?』
「え、そんなことない! ただびっくりして」
 心配そうな斎の声に、茉理は首をぶんぶん横にふった。
 来たいとあこがれていたことは事実だ。
 まさか同年代の男の子と、二人で来ることになるとは思わなかったが。
『僕、遊園地って初めてなんだ。楽しくて、面白いって、さっき君が言ったとき、真っ先に思いついたんだよ』
 斎は嬉しそうに笑う。
『あと、静かで話せる場所がついてるとしたら――ほら、ここ、あっちのハーブ園とかなら、中でお茶も飲めるし、静かに話せるって雑誌に載ってたんだ。全部条件を満たしてるだろ?』
『う……うん、そうだね』
 茉理は、思いがけない彼の笑顔に、一瞬どきっとした。
(こういう顔してると、ほんとうにクラスメイトたちと変わらない中一男子に見えるんだけどなあ)
 普段の沈んだ、どこか遠くを見ている表情では、なんか少しだけ存在が違うように感じてしまう。
『さ、行こう。遠野さん、どれに乗る?』
 すごく嬉しそうに、斎は茉理の手を引いて、アトラクションに向かっていった。



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[ <29>−8 ]
2008/05/10(Sat) 16:44:54
「あー、疲れた」
『けっこう人いるね。平日なのに』
 二人は、ホラーハウスの前にあるベンチに腰掛け、ぐったりしていた。
 あれから一体どれだけアトラクションを回ったのか、覚えていない。
 初めて来た、と嬉しそうに喜ぶ斎は、どんどん茉理の手を引っ張ると、手当たり次第に見つけたアトラクションに入っていった。
(ジョットコースター系に、10回も乗っちゃったよーっ、ふうっ、しんどい)
 嫌いではないのだが、さすがに連続で乗ると、頭がぐらぐらする。
 茉理が目を回しているのに気付き、斎はベンチに座って休憩することにした。
『あと、乗ってないのは――』
「ていうか、今日一日で乗り切れないよ、遠野君」
 茉理は、あえぎながらつぶやく。
 何しろ日本最大級のアトラクションの数を誇っているのだ、このXXランドは。
 朝一で来ても、全部乗るなんてことは出来ないのに。午後から入って、どう効率良くまわったとしても、半分乗れればいいほうだ。
 茉理は腕時計を見る。
 大分日が長くなってきていたから気付かなかったが、もう5時半だ。
(そろそろ帰らないといけないかな)
 近所ならともかく、ここからだったら電車で乗り継いで、軽く2時間はかかる。




第一巻<29> / TB(-) / CM(-) /

[ <29>−9 ]
2008/05/11(Sun) 20:17:22
 茉理が時計を見たのに気付き、斎が聞いた。
『そろそろお腹すいたんじゃない?』
「あ……そうだね、じゃ、そろそろ」
 茉理は立ち上がった。
 もう今日はこのくらいで、帰宅した方がいいだろう。
 話はまたの機会になるが、別に校内だってかまわないし。
『じゃ、夕ご飯食べに行こうか』
「は?」
『そこのハーブ園の中にね、美味しいレストランがあるんだって。予約入れといたんだ』
「ええーっ!」
 茉理は、ぶっとんで叫んだ。
『どうしたの、遠野さん。あ、ひょっとして洋食、嫌いだった?』
 じゃ、予約は取り消して、ゲートの方にあるレストラン街に行こうか、などと、頭の中でぶつぶつ言ってる斎を、茉理はくらくらする思いで眺める。
(チケットだけでもかなりお金使ってるのに、その上夕食までなんて)
 しかも斎が言ってるレストランは、雑誌によく紹介されてる一流シェフの高級料理店。それもハーブを使った、健康に良いおしゃれな料理と、窓辺から見える海の景色が最高で、カップルの間で大人気なのだ。
(そんなとこを予約した、ですって!? ……世界が違いすぎるわ)
 本当に目の前の彼は、同じ年齢で、同じ学校なのだろうか。
 ついていけない茉理だったが、ふっと顔をあげると、斎の心配そうな目とぶつかった。
 少し不安の入り混じった瞳に、茉理の中で力が抜ける。
「そこでいいよ。でも、あのその前に、家に電話させて」
 ぱっと嬉しそうな顔をする斎に、はああっとため息をつき、茉理は手近にある公衆電話に駆け寄った。





第一巻<29> / TB(-) / CM(-) /

[ <29>−10 ]
2008/05/12(Mon) 15:33:16
「いらっしゃいませ」
 夕方のこととて、少しライトアップされたおしゃれなレストランは、空気がひんやりして気持ちよかった。
 ハーブの香りか、店内を自然の落ち着いた香りが包み、一流ホテルのロビーを思わせるようなシャンデリアに、高級ソファが並んだ待合室がある。
 二人がソファに通され、座って待っていると、ビシッと決めた制服に身を包んだボーイがやってきて、礼をした。
「お待たせしました。ご予約の遠野様でございますね」
「あ……はい」
 茉理は、あわてて返事をする。
 斎が声を出せないから、自分が代わりに言うしかないのだが、それにしても緊張することこのうえない。
「こちらへ」
 案内された席は、他の席より一段高く、舞台のピアノ演奏がよく見えるようになっている場所だった。
(うっわーっ)
 茉理は、どきどきしながら腰掛ける。
 横は一面ガラスになっていて、遠くに海が見えていた。
 ボーイは、メニューを聞くこともなく、去っていく。
 茉理は、外の景色が綺麗なのに驚き、ガラスのテーブルに置かれた可愛い花の生け鉢に喜び、あちこちに飾られたハーブに、目を丸くした。
(すごく可愛くて、おしゃれだわ)




第一巻<29> / TB(-) / CM(-) /

[ <29>−11 ]
2008/05/13(Tue) 11:57:20
 ふとまわりの席を見ると、顔から火が出そうになった。
 やはり大人のカップルが多くて、女の子はみんなおしゃれなワンピースやスーツだ。
 きちんとお化粧もしていて、アクセやバッグもブランド物っぽい。
(遠野君は、あんまり違和感ないんだけど、わたしはちょっとなあ)
 着古したバーゲンセールのTシャツにジーンズ、足元は運動靴という有様。
 鞄だって、小さなショルダーポーチ。(これは以前、誕生日に友達がくれた物で、どこのファンシーショップにも置いてありそうな品だった)
 当然スッピンだし、アクセサリーなんて、せいぜい髪を二つに分けて結んでる髪ゴムに、プラステックで出来たお花がついてるぐらい。
(ううっ、帰りたいよーっ)
 こんなんで食事なんて出来るかなあ、と顔を青ざめさせている彼女に、斎はけげんそうな顔をした。
『どうしたの? 後野さん?』
「いや、その……わたし、こういうとこって初めてで、緊張するというかなんというか……ははは」
 最後は笑ってごまかすと、斎は微笑む。
『うん、僕も初めてなんだ。でもいいよね、こういうところも?』
「え? 遠野君も初めてなの?」
 茉理は驚く。なんか来慣れているような感じがしていたのだが。




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[ <29>−12 ]
2008/05/14(Wed) 14:19:44
『だって僕は、あんまり外に出たりしなかったんだ。今回が初めてなんだよ。こうして同じ歳の人と一緒に、どこかに遊びに行ったり、食事をしたりするのなんて』
「あ……そうか」
 茉理は納得した。
「ごめんね、なんか嫌なこと、言わせちゃったかな」
 小声で聞くと、斎は 気にしないで、と頭の中に返してくる。
『これからいろんな所に行ってみたいと思うんだけど、また後野さん、つきあってくれる?』
「え?」
 茉理は、どきっとして顔をあげた。
 斎の真剣な瞳は、にくらしいくらい彼女をしっかり見つめていて、正直胸の鼓動が止まらなくなってしまう。
(や、やだなあ、そういう目で見られちゃうと、なんか困っちゃうんだけどな)
 茉理はもじもじした。
「わ、わたしで良かったら、別にいいけど」
『本当?』
 ぱっと顔を輝かせた斎に、また茉理の胸が激しく高鳴る。
(ば……バカッ! わたしのばかっ、こんなとこで、時めいてどうすんのよっ)
 彼は、別に深い意味があって誘ってるわけではないのであって。
 そういうことを連想してしまう自分の方が、大ばかなのは確かなわけで。
 茉理はおたおたしながら、必死に自分の気持ちを落ち着けようとした。





第一巻<29> / TB(-) / CM(-) /

[ <29>−13 ]
2008/05/15(Thu) 15:07:20
 予約の時にメニューも頼んでおいたのだろう。
 すぐにも料理が運ばれてきた。
 オードブルからスープ、メインにデザートまで、一通り運ばれてきて、茉理は一生懸命食べた。
(でもなんか、食べた気がしない)
 慣れないナイフとフォークを使って、とにかく見た目に粗相のないよう、気を張って口に運んだが、どうにもこうにも窮屈この上ない。
 斎はいともたやすくナイフで肉料理を切り分け、口元に運ぶ。
 その綺麗なしぐさに、思わず見とれてしまう自分が悲しくて――茉理は、早くデザート来いっ、と心の中で叫ばずにはいられなかった。
 なんとか食事を終えると、斎はレストランを出て、ハーブ園を見て歩こう、と提案する。
 茉理はほっとしながら、彼についていった。
 良い香りのするハーブを楽しみながら、夕暮れに染まった庭園を歩いていると、本当に気持ちが落ち着いてくる。
 小さな広場のような所に出ると、白いおしゃれなベンチがいくつか並んでいた。
(ここって、雑誌に載ってた告白に最高の場所だとかってとこよね)
 茉理がそんな事を思い出していると、斎は少し座ろう、と手近なベンチに歩いていく。




第一巻<29> / TB(-) / CM(-) /

[ <29>−14 ]
2008/05/16(Fri) 09:16:33
『ちょっと待ってて』
 彼はそう言うと、向こうにあるしゃれたスタンドに駆けていった。
 茉理は、まわりに咲く綺麗な花や、ハーブをみながら一息つく。
(なんかすごい一日よね――まだ終わってないけど)
 土日や祭日は、きっとここもカップルに占領されるだろうけど、今は人が少なかった。
(あれ?)
 茉理は、向かいのベンチに座った少年を見て、目を大きく見開く。
 彼は足を組んですわり、雑誌をめくっていた。
 その横顔はまさしく――。
「お……お兄ちゃん!?」
 茉理は、叫んで立ち上がった。


第一巻<29> / TB(-) / CM(-) /

[ <30>−1 ]
2008/05/17(Sat) 13:26:45
「お兄ちゃん!?」
 茉理の声に、彼は雑誌から顔をあげる。
 じっと向かいに立つ少女を見つめた。
「君は……?」
 少女は、向かいのベンチから駆けてきて、息を切らせている。
「あ、あの、お兄ちゃんでしょ、そうでしょ」
「え?」
「わたしよっ、茉理。お兄ちゃんが小学3年まで、隣に住んでた後野 茉理よっ」
 彼女は叫んで、彼の手をとった。
「ね、お兄ちゃんでしょ、間違いないわ」
「あの、君は一体……」
 彼――明人は、目を瞬かせる。
「後野……茉理?」
「そうよ、お兄ちゃん、会いたかったわ」
 茉理は、がばっと彼に抱きついた。
「お、おいっ」
 雑誌を取り落とし、明人はあわてて茉理を受け止め、困惑する。
「会いたかった――やっと会えた」
 茉理は、涙をぼろぼろこぼしながらつぶやいた。
「わたし、お兄ちゃんにどうしても会いたくて、クリスティに転入してきちゃった。今、1年A組なんだよ」
「クリスティに? 君、僕と同じ学校なの?」
 明人の返事に、茉理は顔をあげ、彼を見た。
 あきらかに困った顔をしている。




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[ <30>−2 ]
2008/05/18(Sun) 20:03:16
「あの、お兄ちゃん――水沢、じゃなくて、早川 明人さんですよね」
「そうだよ。僕は2年B組の早川 明人だ」
 少し微笑みながら、彼は茉理を離した。
「どうやら君は、僕の過去を知ってる人みたいだね」
「え?」
「実は僕には、過去の記憶がないんだ。クリスティに転入したくらいのことは覚えてるんだけど、それ以前のことはまったく」
「ええええーっ!」
 茉理は、思いっきり叫んだ。
「そんな……そんなことって……」
「ごめん。だから君と会ってたのかもしれないんだけど、思い出せない」
 茉理は、呆然と立ちすくんだ
 やっと会えたのに。
 彼に会うために引越しし、必死に勉強して入学試験を受けた。
 そのあとの学園生活は、おせじにも良かったとは言えない中で。
 それにも耐えて、ひたすら彼に会うために、今日まで来たというのに。
 やっと会えた初恋の人は、自分のことを何一つ覚えていなかったのだ。




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[ <30>−3 ]
2008/05/19(Mon) 09:51:18
「嘘……うそよね、お兄ちゃん」
 茉理は、へなへなとその場に膝をついてしまう。
「やだよ、お兄ちゃんがわたしのこと、忘れちゃってるなんて……やだよ……ぐすっ」
 ぼろぼろぼろぼろ、涙が止まらない。
 大きな瞳を更にゆがめて、茉理は泣き続けた。
 そんな彼女の頭に、大きな手のひらが乗る。
「泣かないで……大丈夫」
 明人の手が、茉理の頭を何度も撫でた。
 そう、この手だ。
 いつも自分の手を取って、公園に、幼稚園に、小学校につないでいった。
 悲しくて泣いてるときには、いつもこうして頭を撫でてくれた。
(大丈夫って、何度も今みたいに言ってくれた。わたしは、この手を知ってる。間違いなく、大好きなお兄ちゃんの手――)
 記憶をなくしていても、変わっていない。
 その暖かさと、心配そうにやさしく見つめる瞳は。



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[ <30>−4 ]
2008/05/20(Tue) 09:41:15
 茉理は、涙をぐいっとぬぐうと微笑んだ。
「ごめんなさい、突然泣いちゃって」
「ううん、謝るのは、きっと僕の方だから」
 明人は、茉理にハンカチを貸してくれる。
 茉理は目をふいて、少し落ち着く。
「あの、記憶がなくなったって」
「うん、そうなんだ。いつのまにかね」
 明人は寂しそうに、遠くの海に目をやった。
「それでも前は、少しは覚えていたこともあったけど――しばらくたつと、みんな消えてしまったんだ。思い出したくて、あちこち病院とか、カウンセリングとか、お袋とまわったんだけどね」
「あ、恵美おばさんは、どうしてます? お元気ですか」
 茉理は、明人と同じ優しい目をしていた彼の母親を思い出した。
「お袋? うん、元気にしてると思う。今は新しい父と一緒に、外国にいるけどね」
「そうなんですか」



第一巻<30> / TB(-) / CM(-) /

[ <30>−5 ]
2008/05/21(Wed) 13:29:48
 茉理は、はっとして、ポーチから手紙を出した。
 それを明人の手に押し付ける。
「これ、お兄ちゃん――じゃなかった、早川先輩が、わたしにくれた手紙なんです」
「僕が君に?」
「はい」
 明人は、古い手紙を開いてみた。
 まだ小学生の文字が、彼の目に飛び込んでくる。
 なんどか読み返し、彼はふっとひたいを押さえた。
「くっ……なんだ、これは」
「どうしたんですか?」
「うっ……頭が……頭が割れる!」
 彼は手紙を落とすと、ベンチから崩れ落ち、頭を抱えて、うずくまってしまう。
「お兄ちゃん!? 大丈夫?」
 茉理は、彼を支えるように抱えた。
 背中をさすり、声をかける。
「お兄ちゃん、しっかりして」
 彼はますますうめき、頭をかきむしりながら苦しみだした。
(どうしよう。このままじゃお兄ちゃんが!)



第一巻<30> / TB(-) / CM(-) /